「第2回 ⽇本ホラー映画⼤賞」で大賞を受賞した短編『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』が、⻑編作品として遂に映画化。本作で商業映画監督デビューを飾ったのは、テレビ東京ドラマ「イシナガキクエを探しています」が話題を呼んだ、俊英・近藤亮太。日本のファウンドフッテージ・ホラーに新たな1ページを刻んだとも言える本作は、息苦しさを感じるような“嫌な”空気で充満している。
同賞の選考委員長を務めたホラー映画の巨匠・清水崇のバックアップのもと、近藤亮太監督はいかにして『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』を作り上げたのか。2人に話を伺った。
『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』あらすじ
「そのビデオテープには映ってはいけないものが映っている・・・」敬太(杉田雷麟)は幼い頃、弟・日向が自分と出かけた山で失踪するという過去を持ち、今は失踪した人間を探すボランティア活動を続けていた。そして、ある日突然母から古いビデオテープが送られてくる。それは、日向がいなくなる瞬間を映したビデオテープだった。霊感を持つ同居人の司(平井亜門)はそのテープに禍々しい雰囲気を感じ、敬太に深入りしないよう助言するが、敬太はずっと自分についてまわる忌まわしい過去を辿るべく動き出す。そんな敬太を記事ネタの対象として追いかけていた新聞記者の美琴(森田想)も帯同し、3人は日向がいなくなった“山”に向かう…。
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商業監督としての資質
Q:長編映画デビュー作となりましたが、完成した作品を観ていかがですか。
清水:近藤監督の作品は、第2回 日本ホラー映画大賞を獲った『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』の短編はもちろん、第1回で応募してくれた『その⾳がきこえたら』(21)という短編も観ていましたし、両作から「この人、確実にセンスがある!」と感じ、そのセンスを作品としてまとめる手応えもあった。商業映画デビューしてもらう監督として、不安要素が無かったんです。
完成した作品を観るとやっぱりすごいと思ったし、短編では出来なかった展開や描写も含めて、存分に近藤ワールドが楽しめるものになっています。第1回大賞の下津優太監督作『みなに幸あれ』(24)もそうでしたが、僕が発想できないものを作っていて、内容もとても怖かった。あまり褒めちぎるとただの内輪受けの手前味噌になっちゃいますが、関わる側として安心しました(笑)。
近藤:長編も商業映画も初めての経験だったので、何がどこまで出来るものなのかよく分からず、手探りな部分がありました。実際に制作が始まると、色んな方が携わることによって自主制作では到底出来なかったようなことが可能になりました。良い感じの廃墟を見つけてもらい、そこで撮影出来るよう交渉までしてもらえましたし、カラーグレーディングや音響は自分1人でやっていたものとはレベルが全然違いました。「細かいところの音一つでこんなにも表現が変わってくるんだ」と発見もありましたね。もっと早くからこういう体制で作れば良かったなと(笑)。
清水:僕も最初はそうでした(笑)。各パートのスタッフは、こちらが言ったことを膨らまして色んなものを提案してくれる。お金をいただき責任を持ってやる“プロ”というものを実感しました。とはいえ、お金をもらって仕方なくやるのではなく「この監督のためなら、この企画のためなら頑張ろう」と焚きつけられるかどうかは、その監督の人柄次第。近藤監督はそこも長けていましたね。人柄やコミュニケーション能力は本当に大事だし、演出の一部でもあると思うんです。
『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』©︎2024 「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」製作委員会
Q:スタッフとのコミュニケーションは得意だという実感はありますか。
近藤:あんまりないですね(笑)。まぁ大人なので普通にコミュニケーションをとっているくらいです。
清水:監督の中には、自分の世界観と自己愛を誇示して、ただ怒鳴っているような人もいるからねぇ(苦笑)。
近藤:なるほど、そういう意味では自分がされて嫌なことはしたくないですね。助監督をやった経験もあるので、その感覚はあると思います。今回の撮影、照明、録音などのメインスタッフに関しては、自分と同じ学校の出身で短編の時から一緒にやっている人たちにお願いしました。皆上手だし信頼関係もある。何かつらくなってもこの人たちにグチればいいやと(笑)。そこに、ベテランの制作部や演出部の方に入っていただけたので、盤石の体制で安心して撮影が出来ました。