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『ブルータリスト』ブラディ・コーベット監督 建築の迫力をビスタビジョンで捉える【Director’s Interview Vol.474】

© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures.

『ブルータリスト』ブラディ・コーベット監督 建築の迫力をビスタビジョンで捉える【Director’s Interview Vol.474】

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昨年の『オッペンハイマー』に続き、再び映画界を揺るがせるような記念碑的作品が生まれた。本作が長編3作目にあたる36歳の俊英ブラディ・コーベット監督がビスタビジョンで撮り上げた、215分の壮大な新作『ブルータリスト』である。ブルータリズムと呼ばれる建築様式で注目を浴びながらも、戦争によりすべてを失い、1950年代にハンガリーからアメリカに移住したユダヤ人建築家(エイドリアン・ブロディ)の数奇な半生を描く。戦争の傷跡、移民差別、アメリカン・ドリームの幻影、キャピタリズムの弊害――さまざまなテーマを内包しながら、荘厳な建築の魅力を伝える映像と素晴らしい俳優たちのアンサンブルをもたらしたコーベット監督に、本作について訊いた。



『ブルータリスト』あらすじ

才能にあふれるハンガリー系ユダヤ人建築家のラースロー・トート(エイドリアン・ブロディ)は、第二次世界大戦下のホロコーストから生き延びたものの、妻エルジェーベト(フェリシティ・ジョーンズ)、姪ゾフィア(ラフィー・キャシディ)と強制的に引き離されてしまう。家族と新しい生活を始めるためにアメリカ・ペンシルベニアへと移住したラースローは、そこで裕福で著名な実業家ハリソン(ガイ・ピアース)と出会う。建築家ラースロー・トートのハンガリーでの輝かしい実績を知ったハリソンは、ラースローの才能を認め、彼の家族の早期アメリカ移住と引き換えに、あらゆる設備を備えた礼拝堂の設計と建築をラースローへ依頼した。しかし、母国とは文化もルールも異なるアメリカでの設計作業には多くの障害が立ちはだかる。ラースローが希望を抱いたアメリカンドリームとはうらはらに、彼を待ち受けたのは大きな困難と代償だったのだ――。


Index


ブルータリズム建築に魅せられて



Q:とても見応えのある壮大な作品ですが、どのようなところから本作のアイデアが浮かんだのでしょうか。


コーベット:僕と妻のモナ(・ファストヴォールド/共同脚本家)は、お互い家族に建築家がいたので、建築にはもともと馴染みがあったのです。僕の叔父はフランク・ロイド・ライトが20世紀前半にウィスコンシン州で始めた教育機関の分校で学びました。一方モナの祖父はスカンジナビアのミッドセンチュリーのデザイナーでした。だから実際に本作の脚本を書き始める何年も前から、「建築家に関する物語を撮りたいね」と話しあっていたのです。僕らはとくにメトロポリタン美術館の別館であるメット・ブロイヤーの建物が大好きで、これは70年代に建てられたブルータリストの代表的な建築のひとつと考えられています。ブルータリズムは建築スタイルのなかでも独特なので、それをもっと探究するような映画を作りたいと思ったのが発端。それから実際に脚本を書き始めてからも、ブルータリズムについて探究を重ねていきました。



『ブルータリスト』© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures.


Q:主人公のラースロー・トートはフィクションのキャラクターですが、参考にした実在の建築家などはいますか。


コーベット:もちろん、何人もいます。マルセル・ブロイヤー、ポール・ルドルフ、ルイス・イザドア・カーン、ルードヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエなど。ブルータリストの建築家だけでなく、フィリップ・ジョンソンのようなミッドセンチュリーの建築家からもインスピレーションを得ています。またマルセル・ブロイヤーと彼の妻との関係も、脚本に反映しました。


舞台美術については、セットデザイナーのジュディ・ベッカー(『キャロル』15)もブルータリスト建築のファンで、彼女なりのビジョンを持っていました。僕にとってそれはとても好都合で、とりわけ彼女以上に50年代の雰囲気を巧く作り出すセットデザイナーを知りません。トッド・ヘインズ監督の『キャロル』はあまり大きな製作費ではないと思いますが、あれほど美しく50年代のセットを作りあげた作品は、ダグラス・サーク以来観たことがないと思いました。また時代的な雰囲気に関していえば、写真家のソール・ライターの作品も参考にしました。僕らはビスタビジョンの映画にしたいと最初から考えていて、かつてのテクニカラーのような色彩を求めていました。





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