『友だちのパパが好き』(15)『夜明けの夫婦』(21)の山内ケンジ監督が送る、純粋社会派深刻喜劇の新作『アジアのユニークな国』。夫が仕事に出ている平日の昼下がり。ひとつ屋根の下では、妻は1階では介護を、2階では違法風俗を行なっている。そんなとある一家を覗いてみると見えてくる、とある国の姿とはーー。
劇作家でありCMディレクターの山内監督最新作は、完全なる自主制作映画。撮影の大半は監督の自宅で行われ、本取材も同じ場所で実施された。CMや映画など、これまで商業ベースの映像を手掛けてきた山内監督だが、前作『夜明けの夫婦』からは自主制作での映画作りに取り組んでいる。山内監督はいかにして『アジアのユニークな国』を作り上げたのか。取材途中、本作の野上信子プロデューサーにも参加してもらいつつ、山内監督に話を伺った。
『アジアのユニークな国』あらすじ
都内に夫と暮らし義理父の介護をしている曜子(鄭亜美)は、ある政治家が嫌い。あることがきっかけで最近自宅でよくないことを始めている。夫は気がついていない。しかし、隣家の主婦が気がついているようだ。
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なぜ「政治」と「違法風俗」だったのか
Q:政治談義と違法風俗、隣人との関係など、面白い構図で物語が進みますが、着想のきっかけについて教えてください。
山内:長編映画は今回で5本目ですが、最初の3本と『クソ野郎と美しき世界』(18)というオムニバスを合わせた3.5本は、ギークピクチュアズが制作会社として入っていました。それが前作の『夜明けの夫婦』から、野上プロデューサーと僕の二人だけで自主映画として作ることになった。そこに大きな区切りがありました。例えば、それまでもこの家を撮影で使っていましたが、前作から更に使うようになり、スタッフ的にも相当タイトになりました。今回はその2本目なんです。
前作よりも、もっとこの家を使ってもっとミニマルにしたい。そして前作との姉妹編のように、鄭亜美さんを主演に同じ役者たちにも出てもらいつつ、前作とは違う関係性で全く別の話にしたかった。そういう枠組みから何ができるかを考え、出てきたのが今回の設定でした。そこからもっと尖ったものにしたくて、「政治」や「違法風俗」といったワードを繋げて脚本を書いていきました。
『アジアのユニークな国』©『アジアのユニークな国』製作委員会
Q:「政治」や「違法風俗」には、元々ご自身の中での思いがあったのでしょうか。
山内:コロナ前の分断がひどかった時期は、日本が『シビル・ウォー』(24)みたいになってもおかしくないくらいの感じがありました。それが何だか今は曖昧になっている。いつの間にか忘れられているような感じが、とても気になっていました。そのことと、この家で撮影するという条件を考えたときに、「違法風俗」みたいなものとリンクしていったんです。
Q:何気ない会話の中に見え隠れする、登場人物の性格や趣向が面白かったです。人物の性格・設定などは事前にどれくらい決めているのでしょうか。
山内:今回の出演者は知っている人たちばかりだから、「この人だとこういう感じかな」と当て書きに近いですね。そのまま何も考えずにセリフを言ってくれればいいですよと。鄭さんはリベラルな政治信条の持ち主なので、曜子と似たようなことを普段からよく言っていますから。
Q:日常的に話すような何気ない会話が多いですが、物語は確実に進行しています。脚本はどのように書かれているのでしょうか。
山内:プロットは作らずに、最初から書き進めていく感じです。そのシーンでの会話を書いて、そこから繋げていく。そうやって書いていくと途中から終わり方が見えてくるんです。