幾度となく舞台で上演されてきた、松田正隆による傑作戯曲「夏の砂の上」。自身の劇団「玉田企画」でこの作品を上演した玉田真也が、作品への思い入れを胸に、今度は監督・玉田真也として念願の映画化に挑む。主演を打診され脚本を読んだオダギリジョーは、「これは良い作品になる!」と自らプロデューサーを買って出たほどの熱の入れよう。共演には、髙石あかり、松たか子、森山直太朗、高橋文哉、満島ひかりと、驚くほどに豪華な面々が揃っている。
玉田監督はいかにして、舞台「夏の砂の上」を映画として焼き付けたのか。話を伺った。
『夏の砂の上』あらすじ
雨が一滴も降らない、からからに乾いた夏の長崎。幼い息子を亡くした喪失感から、幽霊のように坂の多い街を漂う小浦治(オダギリジョー)。妻の恵子(松たか子)とは、別居中だ。この狭い町では、元同僚の陣野(森山直太朗)と恵子の関係に気づかないふりをするのも難しい。働いていた造船所が潰れてから、新しい職に就く気にもならずふらふらしている治の前に、妹・阿佐子(満島ひかり)が、17歳の娘・優子(髙石あかり)を連れて訪ねてくる。おいしい儲け話にのせられた阿佐子は、1人で博多の男の元へ行くためしばらく優子を預かってくれという。こうして突然、治と姪の優子との同居生活がはじまることに……。高校へ行かずアルバイトをはじめた優子は、そこで働く先輩の立山(高橋文哉)と親しくなる。懸命に父親代わりをつとめようとする治との二人の生活に馴染んできたある日、優子は、家を訪れた恵子が治と言い争いをする現場に鉢合わせてしまう……。
今回は動画版インタビューも公開! あわせてお楽しみください!
Index
戯曲の余白を映画にしていく
Q:「夏の砂の上」は舞台も手がけられていますが、以前から映画化への思いはあったのでしょうか。
玉田:もともと好きな戯曲だったので、映画化できないかぼんやりと考えていました。はっきりと映画化したいと思ったのは2021年の秋から年末頃、「夏の砂の上」を上演するために稽古をガツガツやっているときでした。
Q:稽古中に何かきっかけがあったのでしょうか。
玉田:この戯曲で描かれているのは主人公の茶の間だけで、外側の世界や以前にあった出来事などは余白として想像させるものになっている。稽古を始めていくと、その描かれていない余白の部分を俳優と一緒に想像することになるんです。「この間に、こんなことがあったのではないか」「こういうことがあった上で、このシーンになっているのではないか」と、描かれていないところにすごく“おいしい”部分があるように思えてくる。それでやっぱり映画にしたいなと。
『夏の砂の上』(C) 2025 映画『夏の砂の上』製作委員会
Q:映画の脚本執筆にあたっては、その余白を補完していく作業になったのでしょうか。
玉田:そうですね。余白を想像し、そこに至るまでの間をどう埋めたらゴールに辿り着けるのか。それを考えながら作っていきました。
Q:具体的にどのような経緯を経て映画化に至ったのでしょうか。
玉田:舞台の稽古をしながら、映画化のためのプロデューサーを探していました。そんな中、今回のプロデューサーである甲斐真樹さんが舞台を観に来てくれたんです。その時点では知り合いではなかったのですが、舞台を気に入ってくれた甲斐さんから「舞台の再演を一緒にやりたい」と言われました。それで「再演ももちろん嬉しいですが、映画化もしたいと思っているんです」と言ってみると、「そうなの⁉︎ じゃあ映画をやろう!」とその場で決まりました。そこからは割とすぐにシナリオ作りなどが動き始めました。