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『そばかす』ヒロインともう一人のヒロイン

(c)2022「そばかす」製作委員会

『そばかす』ヒロインともう一人のヒロイン

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恋愛とか結婚とか



 「恋愛とか結婚とかマジでどうでもいいと思ってます」


 友人の付き合いで参加した飲み会で、恋愛に関する質問を暴力的に浴びる佳純(三浦透子)。ああ、またこの話題か。男性たちからの矢継ぎ早の質問に対して不器用に答える佳純の戸惑いの表情からは、そんな言葉が漏れ聞こえてくるかのようだ。佳純はこういったよくある不躾な質問に大きな疑問と不快感を抱えつつ、その場をやりすごしている。どうしてみんな恋愛の話が好きなのか?恋愛とか結婚とか、そういった価値観が人の幸せのすべてだと思うな。それ以前に、人のプライベートに勝手に入ってくんな。


 こういったどこにでもある光景に残念ながら佳純は慣らされてしまっている。そして慣らされてしまっている自分におそらく違和感を感じている。好きな映画を聞かれ、『宇宙戦争』(05)のトム・クルーズの走り方について熱く語りはじめる佳純。対面する男性が彼女の話に興味がないのは明らかだ。男性は佳純の話を遮って、今度二人きりで会うことを求める。なぜいつもこうなるのだろう?三浦透子はヒロインの感じている違和感を皮膚レベルで観客に体感させていく。



『そばかす』(c)2022「そばかす」製作委員会


 佳純は会社の屋上で喫煙する。電子タバコよりも紙巻きタバコがよく似合う蘇畑佳純というヒロイン。『そばかす』(22)は、他者に対して恋愛感情や性的欲求を抱かないアロマンティック・アセクシャルのヒロインをはっきりと描いた上で、恋愛や結婚を上位に置くような価値観に異議を唱える「反恋愛至上主義」の傑作だ。同じくアロマンティック・アセクシャルの登場人物を描いたNHKの連続ドラマ「恋せぬふたり」(22)や、性愛への嫌悪を描いた『Straight Up』(19)では、マイノリティ同士の共同生活による齟齬が描かれていたが、本作ではそういった物語装置は回避されている。


 一人で生きているヒロイン。アサダアツシによる脚本は、佳純が転職することになる保育園の園児たちによる恋愛未満の恋愛等、ヒロインが世の中の価値観に感じている齟齬を日常の様々なケースと並べていく。優れて構造的に練られている上に、ヒロインとそれぞれの登場人物たちへの絶妙な距離感を滲み出すことにも成功した脚本だ。他者からの無理解や無遠慮な言葉を集めることよりも、ヒロインと彼女の身近にいる他者との類似性を一つ一つ拾い集めていくことに重きが置かれている。





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