俳優の相馬有紀実が企画・プロデュース・主演を担当した『はらむひとびと』は、相馬自身の悩みや経験を反映した母親たちの物語。監督・脚本は、Creepy NutsのMVなどを手掛け、CMディレクターとしても活躍する中嶋駿介。本作は、自主制作映画で“痛み”をテーマに描き続けてきた中嶋ならではの内容に仕上がっている。相馬と中嶋の2人はいかにして『はらむひとびと』を作り上げたのか。2人に話を伺った。
『はらむひとびと』あらすじ
3歳の息子・ゆうりを育てる亜湖(相馬有紀実)は、仕事優先の夫 雅人(前原瑞樹)にも頼れず、社会から隔絶されていく日々の中で、育児ノイローゼに陥っていた。一方、広告会社に勤める郁美(瀬戸かほ)は、有名コピーライターの夫 俊介(浅香航大)との間に望まぬ妊娠をしてしまう。偶然再会した旧友の2人は、互いの境遇に共感し、やがて協力関係に。亜湖は回復の兆しを見せ、都美もゆうりとの交流を通じて母になる覚悟を抱き始める。しかし、そんな矢先にゆうりの置き去り事件が発生してしまい・・・。亜湖、都美、俊介、雅人のそれぞれの想いと正義、葛藤そして絶望や希望が交差する。
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子供とキャリア、選択の疑問
Q:本作は自主制作映画ですが、どのようにして動き出したのでしょうか。
相馬:私は俳優をやって今年で20年になるのですが、このタイミングで何か勝負したいなと。そこで助言もあり頭に浮かんだのが長編映画制作でした。妊娠で仕事を諦めたくないという思いも強く、そういう題材で映画を作りたかった。それが最初のきっかけです。
子供を授かると仕事を休まなければいけないので、今まで築き上げてきたものが全部なくなってしまう恐れがありました。子供は欲しいけどキャリアも手放したくない。そもそも何故どちらかを選ばなければならないのか。その選択に直面したくなくて、妊娠を避けていたのも事実です。そこはちゃんと考える必要があるし、向き合わなければならない。でもそれってすごく勇気のいることで、悩んでいる女性は多いと思います。この映画が向き合うきっかけになればいいなと。
Q:相馬さんは本作の企画・プロデュースも手がけられていますが、制作にあたりまずはプロットを作られたのでしょうか。
相馬:映画を作ろうと思った後、すぐに脚本家の富安美尋さんにお話して、彼女と相談しながら進めていきました。妊娠で仕事を諦めたくないというテーマに加えて、富安さんが普段から気になっていた「子供の車内置き去り事件」についても描くことになりました。
『はらむひとびと』©はらむひとびとパートナーズ
Q:中嶋監督はどのタイミングで参加されたのでしょうか。
相馬:当初はCMディレクターの田中聡さんが監督してくださる予定で、田中さんと一緒に作業を進めていました。そんな中、田中さんから「自分が監督をやるよりも、もっと適任な方がいるのではないか」という意見が出てきた。では誰が適任なのかと考えたときに、映画祭で観た中嶋監督の作品を思い出しました。中嶋さんは「痛み」をテーマに映画を撮っていて、映画祭などいろんな場所に顔を出して多くの方とコミュニケーションをとっている。中嶋監督って実は“人がいい”のではないかなと。行動力があって“人がいい”方と組みたいと思っていたので、直感で「中嶋さんがいいな」と思いました。それを田中さんにお伝えすると、田中さんは中嶋さんと知り合いだったこともあり「中嶋さん!いいじゃない!」と。それで私と田中さんと中嶋さんの3人でお会いすることになりました。
Q:中嶋さんはお話が来たときはいかがでしたか。
中嶋:相馬さんと田中さんのことは知っていたので、2人が作る映画を楽しみにしていました。すでにこの映画のクラウドファンディングが始まっていたので、そこで支援もしていたんです。監督としての依頼が来た時はさすがに驚きましたが、この企画で相馬さんが考えていることには共感していたので、是非お願いしますとお受けしました。
お受けした時点で脚本はほぼ完成していたのですが、田中さんのテイストがかなり入っていたこともあり、自分が監督をやるのであればその辺は少し変えたいなと。2人に許可をいただいて、脚本を修正するところから始めました。
相馬:元の脚本のベースは崩さずに中嶋さんのテイストを入れつつ、それを富安さんがうまく馴染ませてくれました。