原作と重なるイメージ、離れるイメージ
Q:アートやものづくりの話が大きく入っていますが、そこへの思いはあったのでしょうか。
横浜:「これは芸術の話だ!」みたいな強い思いがあったわけではないんです。シナリオを書き始める前後くらいに、“アーティスト・イン・レジデンス”という仕組みが地方で始まり出していて、地方に滞在して作品を作る人が結構増えてきたという感覚がありました。私の地元の青森でもそういう事業が始まっていて、外からやって来た人が、その土地でしか作れないものを作るというのは面白いなと。私もやってみたかったのですが、映画だから無理かなと諦めていたところに、三宅唱監督が山口に滞在して地元の子たちと映画を作っていることを知り、それも面白そうだなと。そこからなんとなく、“外からやって来たアーティストがいっぱいいる町”みたいなイメージがぼんやりと湧いて来ました。原作でも外から人がやって来るんです。いろんな人たちがやって来てはすぐに去っていく。そういう移民たちの話。
コロナ禍を経験したことも大きくて、リモートワークになって「東京にいなくてもいいじゃん」と、各地を転々としながら仕事を続ける人たちも増えてきた。そういう自由人みたいな人たちが、日本中、世界中のどこにも留まらずにふんわりと漂っているイメージが浮かんできました。そういったものが『海辺へ行く道』の世界観と重なった感じがして、“アーティストを呼び込んでいる町”というイメージがいつの間にか湧いたみたいですね。だから「芸術というテーマについて語ろう!」と思っていたわけではないんです。
アートを見るのは好きなのですが、自分がやるにあたっては絵を描くのも版画を彫るのも子供の頃から大嫌いで、これまで避けてきたことでした。だから逆に、美術にまつわる人たちの思考は、自分がわからないだけにとても興味深く、映画のテーマとしての“もの作りをする人”は、昔から興味を持っていました。
『海辺へ行く道』 ©2025映画「海辺へ行く道」製作委員会
Q:子供たちがアートを楽しんでいるところがとても良くて、子供たちにも観て欲しいなと思いました。
横浜:この映画は大人が観ると、“ちょっと変わった映画”と思われがちなところもあるのですが、子供たちの方が先入観がないので、受け入れやすいと思います。
Q:ロケーション、美術、衣装、ヘアメイクなど、原作のエッセンスを受けつつも映画独自の世界観が広がっています。ビジュアルはどのように作られたのでしょうか。
横浜:漫画の絵の印象が強くて、特に風景がすごいんです。三好さんの描く特徴的な町や海は現実にはそうないだろうなと、当初はだいぶ非現実的なイメージを描いていました。原作のように海が遠くに見えて手前に崖や家が並んでいる書割を作り、それをスタジオで撮るのはどうだという話が出たこともありました。ただ、この映画の雰囲気としてスタジオ撮影は何か違うんじゃないかという思いも心のどこかにあり、ある種の窮屈さみたいなものが映っちゃうのではないかと。結局は実際に存在する場所を探そうとなり、そこから海がある町をロケハンし始めました。
そのあたりから、私が描いていた映画のイメージもだいぶ変わっていきました。当初のイメージはもっと寂れた町で、祖父母が住んでいた青森の田舎の風景が思い浮かんでました。人を全く見かけないくらいの過疎化した土地の中に、ポツリポツリと捨て去られたアートが点在しているような、そういう寂しい風景を頭に描いていました。それが瀬戸内海の小豆島にロケハンに行くと、そこにはちゃんと人の息遣いが感じられて、常に町が動いているような明るさがあったんです。そこを見たときに「この映画はこっちの方向なのかな」と、小豆島に引っ張られていったように思います。そこからはあまり漫画のイメージに囚われずに、小豆島ありきでロケ場所を探しました。島にはアート作品もいっぱいあり、そういった実際に目に見えるものを踏まえて、映画を作り直していこうと。
登場人物の衣装なども、原作から離れて見直していきました。麻生久美子さんが演じた寿美子などは、髪の毛をお団子にして原作へのオマージュみたいにしていますが、その他はロケ場所と同じように現実の目の前にあるものを見直して、そこから新たに作り直すという意識でやっていきました。