横浜聡子監督の最新作『海辺へ行く道』は、三好銀が手がけた傑作漫画の映画化。横浜監督はコミックの帯にコメントを寄せるほどの大ファンだが、映画化にあたり、原作を忠実に再現する手法は選択していない。漫画のエッセンスに自身のイメージを重ねることにより、漫画と映画を絶妙なバランスで組み上げてみせた。その手腕は見事としか言いようがなく、今まで見たことのない唯一無二の映画を生み出した。
横浜監督はいかにして『海辺へ行く道』を作り上げたのか。話を伺った。
『海辺へ行く道』あらすじ
アーティスト移住支援をうたう、とある海辺の街。のんきに暮らす14歳の美術部員・奏介(原田琥之佑)とその仲間たちは、夏休みにもかかわらず演劇部に依頼された絵を描いたり新聞部の取材を手伝ったりと毎日忙しい。街には何やらあやしげな“アーティスト”たちがウロウロ。そんな中、奏介たちにちょっと不思議な依頼が次々に飛び込んでくる。ものづくりに夢中で自由奔放な子供たちと、秘密と嘘ばかりの大人たち。果てなき想像力が乱反射する海辺で、すべての登場人物が愛おしく、優しさとユーモアに満ちた、ちょっとおかしな人生讃歌。
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物語の終わらせ方がわからなかった
Q:映画化が決まる前に原作本の帯にコメントを寄せられていました。原作本のことはご存知だったのですね。
横浜:そうなんです。漫画家の三好銀さんを知ったのが2007〜2008年くらいで、今回とは別の原作をもとに自主制作で短編を撮らせてもらいました。それがご縁で三好さんにお会いしたこともあります。2009年くらいから「海辺へ行く道」の連載が始まってからは、いちファンとして毎月連載を読んでいました。
Q:そのときから映画化への思いはあったのでしょうか。
横浜:ありましたが、これは三好さんの漫画の世界で完結しちゃってるんじゃないかなと。映像化してしまうと、あの世界観が壊れるというか、漫画だからこそ輝くものなんじゃないかなと思っていました。それでも、やっぱりもう一度三好さんの原作を映画化したい。どこかでそう思っていました。
『海辺へ行く道』 ©2025映画「海辺へ行く道」製作委員会
Q:映画化・脚本化するにあたって、どんな作業から始めましたか。
横浜:原作3巻の中に出てくる登場人物の出来事をまず全て洗い出して、そこから映画にできそうなエピソードを直感的に選んでいきました。三好さんの原作ってマジカルな出来事が多くて、例えば、森に入ると体が大きくなってしまうような、非現実的な描写がたくさんあるんです。でもその背後には必ず“詩”が流れているような気がしていて、その詩の部分が自分の中にすっと入ってくるエピソードを選んだ向きもありました。ただ奇想天外なだけの出来事を選ぶのではなく、その背景にちゃんと人の感情が流れているような、それをちゃんと自分が感じられるようなエピソードを選んだら、こうなった感じです。
企画・プロデュースの和田大輔さんも30ページくらいのシナリオを書いていたのですが、それは私が書いたシナリオよりもだいぶ原作寄りでした。起承転結に収まらず、ボンボン不思議な出来事が起こっていく、ある種の過激さがあるシナリオでした。最近それを読み直してみたのですが、これはこれで面白かったなと(笑)。
ただ、自分が書いたシナリオでもどうやって物語を終わらせるかはずっとわからなかったんです。本当に終わらせられないというか。それはもう撮影直前まで考え続けて、結局撮影中にラストシーンが変わっちゃったので。結果、出来たものは起承転結という終わり方じゃなかったですね。
Q:原作のエピソードが混ざり合っている部分も多いです。どのように組み合わせたのでしょうか。
横浜:「静か踊り」というエピソードが第1巻の最初にあって、まずこれは絶対やりたかった。では「静か踊り」で踊っているのが誰なのかを考えた時に、この町にいる人ではなく、外からふらりとやって来た人がたまたま出会った「静か踊り」に参加するというのが良いなと。そう思ったときに、他のエピソードでやりたいと思っていた、町の外からやって来た「高岡刃物商店」の怪しい二人、その女性の方が「静か踊り」をやれるじゃん!って思ったんですね。そうやって、「これは絶対に面白いエピソードだ!」というものが繋がる瞬間がありまして、それを積み重ねていった感じです。
原作では登場人物がいっぱい出てくるのですが、三好さんの漫画って表情が全然無くて、皆同じ顔に見えるんです。もう、髪型と服装が変わっただけじゃないかと思うくらい。そういう何か同一性みたいなものが多いので、パキッと違う人に分かれきってないというか。それで、この人とこの人はセットに出来るなと。そういうことがやりやすい絵柄だったのかもしれません。