村上春樹の短編連作「神の子どもたちはみな踊る」がドラマ・映画として映像化。全6編からなる原作から「UFOが釧路に降りる」「アイロンのある風景」「神の子どもたちはみな踊る」「かえるくん、東京を救う」の4編をもとに、まずはNHKドラマ「地震のあとで」(全4話)を制作、そこに新たなシーンを加えて映画として再構築し、本作『アフター・ザ・クエイク』が誕生した。阪神・淡路大震災直後を描いた原作から、時系列を大きく変えるなど大胆に翻案に挑んでいる。
監督を務めたのはドラマ「あまちゃん」(13)「いだてん~東京オリムピック噺~」(19)など数々のNHKドラマを手掛けてきた井上剛。プロデューサーは『ドライブ・マイ・カー』(21)で米国アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した山本晃久。二人はいかにして『アフター・ザ・クエイク』を作り上げたのか。話を伺った。
『アフター・ザ・クエイク』あらすじ
1995 妻が姿を消し、失意の中訪れた釧路でUFOの不思議な話を聞く小村(岡田将生)。2011 焚き火が趣味の男と交流を重ねる家出少女・順子(鳴海 唯)。2020 “神の子ども”として育てられ、不在の父の存在に疑問を抱く善也(渡辺大知)。2025 漫画喫茶で暮らしながら東京でゴミ拾いを続ける警備員・片桐(佐藤浩市)。世界が大きく変わった30年。4つの時代に点在する物語が時空を超えてつながった時、孤独を抱えた主人公たちを救うため“かえるくん”が帰ってくるー。
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参考として挙がった短編集
Q:今回の企画はどのように始まったのでしょうか。
井上:阪神・淡路大震災から30年になる今年、何か作品を作りたかったんです。山本さんとは『拾われた男』(22 NHK)でご一緒していて、彼に相談したところから企画が始まりました。そこで山本さんから手渡されたのが、村上春樹さんの短編集「神の子どもたちはみな踊る」。私も読んだことがある本で、阪神・淡路大震災をテーマにした『その街のこども』(09 NHK)を作ったときに参考にしていました。ただ、そのものの映像化なんて考えてもいなかったので、ちょっとビビりましたね(笑)。
Q:山本さんの中では、その本を以前から映像化したかったのでしょうか。
山本:いえいえ。すごく難しい原作なので、映像化するなんて気持ちは全然なかったです。あくまでも参考程度ということでお渡ししました。原作は99年に刊行された本なのですが、自分が経験した震災に対して*、物語のアプローチがすごくすんなり入ってきたんです。村上春樹さんの世界に浸りながら、自分たちが経験した物事を見つめ直す時間となり、これからも生きていかなければいけないという前向きなものを受け取ることができた。そんなこともあって、井上さんに相談された時にポロッとこの本が出ちゃったんです。ただ、僕は『ドライブ・マイ・カー』を映画化した後だったので、村上春樹さんの作品を立て続けにやるのはさすがにおこがましい気持ちもありました。
*山本氏は兵庫県西宮市出身で、95年の震災を経験している。
『アフター・ザ・クエイク』©2025 Chiaroscuro / NHK / NHKエンタープライズ
Q:山本さんは震災を経験されていますが、震災にまつわる映画を撮る意向は以前からお持ちだったのでしょうか。
山本:自分自身で積極的にやろうと思ったのは今回が初めてです。井上さんに言われて背中を押された感じでした。
井上:山本さんが被災していた30年前は、僕は東京にいてどこか部外者な気持ちもありました。そういった大きな天災は100年に一度しか起きないと言われていたのに、その後に東日本大震災が起こり、水害や台風といった天災が毎年のように起こっている。今まで部外者だったことが、だんだん自分に近づいてくる感じがあって他人事じゃない感じになってきた。そんな今だからこそ、この30年を振り返りつつ、そこから出発するお話が作れないかと。
山本:“メタ的視点に立つ時の流れ”とでも言いますか、自分たちに起こった出来事を物語化するにはメタ認知する必要が出てくる。プロットを作っているときは、振り返らなければいけないことが多すぎることに気づきました。この感覚は我々だけじゃないかもしれない。それを映画というエンターテインメントの中で、観客が自分の中にあるものを振り返る時間にしてもらえたら。震災を描くことはレクイエムでもありますが、一方で自分たちがこれまで生きてきた時間、これから生きていかなければならない時間をもう一度見つめ直すことも重要なのかなと。