スタッフ・キャストが意見できる現場
Q:最後の病院のシーンでは少年たちが感情を吐露する場面があります。本人たちには演出的にどのような話をされましたか。
木村:あのシーンは撮影の最終日でした。撮影を積み重ねてきたので、それぞれの役は皆さんの頭の中で既に出来上がっている。僕が指示したのは立ち位置とちょっとした顔の向きくらいで、基本的には役者のみんなに任せました。台本に書かれている動きは一旦忘れていいので、自分の気持ちが最も動くタイミングで動いてくださいと。気持ちが動いたら涙が出てもいいし、出なければそれでいい。ここまで生きてきた役で最後のシーンまで来たのだから、そこで出たものが全て。僕らスタッフはそれを真正面から撮るので、基本的には皆さんに委ねますと。そして「最後は晴れやかに終わりましょう」と伝えて撮り切りました。確かどのカットもワンテイクしか撮っていないと思います。
Q:普段の演出でも役者の動きを尊重されているのでしょうか。
木村:ロケ場所を踏まえた上で自分の中で動きは全部作っていますが、それでもまずは役者の皆さんに思うように動いてもらいます。その動きが良かったらそれで撮影しますし、自分の考えた方が良いと思った場合は、改めて提案するようにしています。現場でやってみて良い方で撮影するというスタンスです。頭の中だけで考えて色々と細かく決めて撮影すると、どうしても合わない部分が出てくる時もあります。お芝居は繰り返せば繰り返すほど鮮度は落ちてくる。皆さんが本番一発目に全精力を注入できるようにしたい。それに向けて、役者の皆さんが演じやすい環境を作るように日々努めています。
『僕らは人生で一回だけ魔法が使える』©2025 映画『僕らは人生で一回だけ魔法が使える」製作委員会
現場はスタッフ・キャスト含めて皆がフラットに意見できる環境が必要で、監督とは自分の持つ作品への思いと、皆から出てきた意見をまとめて決定する人。スタッフやキャストの皆さんには「思ったことはどんなことでも全部言ってください」といつも伝えています。また、年代や立場で意見の優劣をつけないように気をつけています。自分の考えだけを通すと、エゴで固められた映画になってしまう。それは観る人にとって良くないし、伝わり方としても違うものになってしまう。特に今回はいろんな世代の人に観てほしかったので、スタッフ・キャストの皆さんが良いと思っている集合体を撮りたかった。全員が納得してやってもらうことが重要なんです。納得せずにやったものは、お芝居でもカメラワークでも人の心には絶対響かない。そこはかなり意識しています。
また、僕は客観で撮るよりも主観で撮るタイプなので、4人が一緒に話すシーンでは僕もその輪に入りながら対話して撮影をしていきました。僕個人の色なのかもしれませんが、どの作品に対しても、登場人物の気持ちがスクリーンの向こう側の方々により伝わるように主観で撮っていくことが、観る人の気持ちにより響き、届くのではないかと思っています。そこは大事にしていますね。