放送作家業・脚本業を引退した鈴木おさむの念願の企画を映画化した、『僕らは人生で一回だけ魔法が使える』。2019年の初演以降、何度も再演されてきた同名朗読劇の実写映画化は、緑豊かな自然に囲まれた小さな村を舞台に、切なく優しい、青春映画の傑作となった。原作・脚本を鈴木おさむ自身が務め、監督としてメガホンを取ったのは地上波ドラマで活躍してきた木村真人。本作が長編映画デビューとなる木村監督は、いかにして本作を作り上げたのか。Blu-ray・DVDが発売される今回のタイミングで、木村監督に話を伺った。
『僕らは人生で一回だけ魔法が使える』あらすじ
緑豊かな自然に囲まれた、とある小さな村。この村には、ある秘密があった。村の少年たちは18歳になると”人生で一度だけ魔法を使える”と知らされるのだ。その魔法を使えるのは20歳になるまでの2年間。この年に18歳を迎えたのは、アキト(八木勇征)、ハルヒ(井上祐貴)、ナツキ(櫻井海音)、ユキオ(椿泰我)の4人だけ。最初は信じられずに笑い飛ばす4人だったが、自身の父親たちもかつて魔法を使ったことを知り、その使い道を考えるための会議を開くなど真剣に魔法に向き合い始める。高校卒業を控え、それぞれの人生の岐路に立つ4人は一体何に魔法を使うのか?彼らの選択が、4人の人生を大きく動かすことに…。
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朗読劇から映画へ
Q:本作はどのような経緯で木村監督にオファーが来たのでしょうか。
木村:原作の朗読劇を観た本作の栗原美和子プロデューサーが、「これは絶対に映像化した方が良い!」と鈴木おさむさんに相談したのが映画化の始まりでした。その後、監督の人選にあたり、おさむさんから「若々しく瑞々しい映像を撮れる人」「この作品を撮りたいと言ってくれる人」というお話が出て、栗原さんが僕を推薦してくれたのがきっかけです。僕が監督した「アオハライド」(23〜24 WOWOW)をおさむさんに観てもらったところ、「この人にしましょう」と僕に決めてくださったそうです。
Q:栗原美和子さんは数々のドラマを手がけてきたプロデューサーですが、栗原さんとはよくお仕事をされていたのでしょうか。
木村:栗原さんの現場には助監督時代に1〜2度行ったことがありましたが、僕の地上波連ドラ監督デビュー作「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~ (第2期)」(20 フジテレビ)という月9ドラマを栗原さんが観てくださって、そこからお声がけいただくようになり、色々と教えていただきました。僕が監督としてご一緒するのは、この作品が始めてですね。
『僕らは人生で一回だけ魔法が使える』©2025 映画『僕らは人生で一回だけ魔法が使える」製作委員会
Q:朗読劇はご覧になっていましたか。
木村:劇自体は観たことがなかったのですが、脚本を読ませていただきました。こんなにも透き通った若者の青春群像劇は読んだことがなく、自然と涙が溢れたことを覚えています。おさむさんが普段作られているものとはまたテイストが全然違う物語だったので、おさむさんの心の中を見た感じがして何だか楽しかったですね。
Q:鈴木おさむさん引退前のたっての映画化ということですが、鈴木さんからはどんなお話がありましたか。
木村:初めてお会いした時に「君の作る映像を信頼しています。一緒に一生懸命作りましょう」と言っていただきました。また、雄大な自然の風景や、映像になったときに流れる感情や空気など、朗読劇だけでは出しにくかったものをできる限り映像に詰め込んで、主演の八木勇征くんの代表作になるものを作ろうと。おさむさんにとってはこれが最後の作品になることもあり、有終の美で締め括ろうと、かなり力をいれていることが伝わってきました。僕にとっておさむさんはレジェンドみたいな方ですが、初対面からフラットに話してくださり、懐の深さを感じましたね。