心情を見せる時は焦らない
Q:逃走劇という要素が軸にありながらも、映画は決して煽らず人間ドラマをしっかりと見せていきます。映画全体のバランスはどのように取られたのでしょうか。
永田:撮るときに意識していたのは、3人の心情がしっかりと撮れているかどうか。それを素材として(編集に)持ち帰れているかは常に意識していました。自分がやりたいものは人間ドラマなので、ただ暗いサスペンスになってはいけない。ワンシーン、ワンシーン、彼らが何を考えているのか、表情しかり芝居しかり、ちゃんと撮れているかなと。あとは編集ですね。クライム感のテンポを念頭に置きつつも、心情を見せる時は焦らない。3人が演じてくれたお芝居は全部使い切って、1フレームも無駄にしないように編集しました。
梶谷が落ちたタバコを拾うような人間味溢れるシーンなどは、尺のせめぎ合いになってきたら間違いなくカットの対象になってしまう。そこは死守しました。「ここを切ると梶谷という人物像が希薄になるから切りたくない!」と(笑)。実は最初に繋げたものから30~40分は切ったんです。タクヤと梶谷の出会いもシーン丸ごと切りましたし、希沙良(山下美月)のシーンもざっくり落としました。ただそういったエピソードは切っても、キャラクターを表現している仕草などは残していきました。最後のバランス調整は編集だったと思います。
Q:逃走劇という点では、『トゥルー・ロマンス』(93)とか『テルマ&ルイーズ』(91)を彷彿とさせる感じもありましたが、意識されたものはありましたか。
永田:特に意識したつもりはないですが、『テルマ&ルイーズ』は好きで定期的に観ているので無意識のうちに組込まれているかもしれません。私はコーエン兄弟の『ノーカントリー』(07)が好きなんです。今回の作品とスタイルは違いますが、ああいった逃亡×追跡みたいな感じは意識しているかもしれません。

『愚か者の身分』©2025映画「愚か者の身分」製作委員会
Q:新宿・歌舞伎町のど真ん中が舞台となっていて、物語の説得力を増しています。現地でのロケ撮影は大変だったのではないでしょうか。
永田:今は昔と違ってフィルムコミッションがあるので、新宿の撮影はやりやすくなりました。同時期に他の映画も結構撮影していて、「みんなやってるな」という感じすらありましたね(笑)。私は助監督経験があるので、ゲリラっぽく撮影するのは得意なんです。こうやればうまくいくという、自分の中での計算がある。今回は花園神社で役者も入れて段取りを重ね、本番で歌舞伎町に移動してサッと撮影しました。とにかく現場であれこれ指示しない。今回は許可が取れている場所での撮影だったので、今までのゲリラ撮影に比べたら可愛いものだったかも(笑)。
私はいつも自転車で新宿を通っているので、大体どこの通りがより“新宿”らしいのかよくわかっています。映画では一瞬映るだけで新宿・歌舞伎町の印象を与える必要があります。「新宿っぽいけど新宿じゃないのかなぁ」みたいな風景ではなく、「新宿・歌舞伎町だぞ!」とはっきりわかる場所を選びました。
Q:歌舞伎町は人が多いので、許可があったとしても撮影は大変そうですね。
永田:夜中の1時から撮影したのですが、その時間になると多少人は減るんです。でも何といっても歌舞伎町ですから、普通の街の“多少減る”とは違う。撮っている方からしたら「遅いしもう帰ったら...」と言いたくなるくらい、人はいました(笑)。