“役同士の関係性”を重視
Q:柴咲さん、オダギリさん、満島さんとは、リハーサルや事前の読み合わせ等、演出はどのように進められたのでしょうか。
中野:皆さんお忙しくて、特にオダギリさんは直前まで『夏の砂の上』(25)の撮影があったため、こちらには撮影直前に合流した感じでした。ただ、今回のオダギリさんは風来坊みたいな役だから、事前にそれほど詰めなくてもよいかなと。一方で、理子と家族、加奈子と子供たちに関しては、それぞれ事前に会っておやつを食べながら話してもらったりして、一緒にいる時間を設けました。子供たちには手紙を書いてもらったりもして、事前にそれぞれの関係性を作ってから現場に入ってもらいました。リハーサルを重ねたりすることはなく、とにかく“関係性を作る”ことを重視しました。
Q:それぞれ皆さん原作は読まれていたのでしょうか。
中野:原作を読まれたかどうかは把握していませんが、原作者の村井さんとキャストが話す機会は設けました。これは実話モノの面白いところで、自分が演じる相手に直接話を聞けるという(笑)。その人の真似をして欲しいわけではありませんが、役作りの最大の題材があるわけですから。それを生かさない手はない。『浅田家!』のときも俳優陣を三重に連れて行って、浅田ファミリーと食事をする会をやりました。だから今回も絶対にやりたかったんです。滋賀までは連れて行けなかったのですが、リモートで「語らいの会」を催して、俳優がわからないことは質問して、それに対して村井さんが答えてくれるという場を設けました。
Q:柴咲さん演じる理子のヘアスタイルやメガネは、ご本人に寄せているんですね。
中野:そこは寄せています。オファーした時の柴咲さんの髪は長かったのですが、「髪を切ってメガネをかけて欲しい」とお伝えし、実際に髪も切っていただきました。

『兄を持ち運べるサイズに』©2025「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会
Q:満島ひかりさん演じる加奈子の母としての葛藤がすごく伝わってきます。満島さんとはどのようなことを話されましたか。
中野:加奈子にとって、元夫はいい面もたくさんあるけれど、絶対一緒には暮らせない人。離婚に際して母が息子を引き取るイメージがある中で、加奈子は元夫から「絶対幸せにする!」と言われてしまい、息子を夫に引き取らせてしまった葛藤がある。だから6年ぶりに再会したときは、息子に対して敬語になっているんです。その辺はしっかりやりましょうと話して、撮影に臨みました。
Q:オダギリさん演じるお父さんと息子の生活は、最初はひどく荒んで見えますが、映画を最後まで観ると印象が違ってきます。その辺の描き方は気をつけましたか。
中野:ネグレクトに見えないようには気をつけました。今回オダギリさんが演じた兄は、映画ではあまり描かれていません。それでも、実は兄ちゃんは頑張っていたのかもしれない、実は良一のことをすごく可愛がっていたのかもしれないと、ちょっとしたエピソードから想像できるように作ってあります。お金は無かったけれど、図書館や港に行って父子で一緒に過ごしたり、履歴書にも「子供のために頑張る」と書いたりしていた。あの辺は実話なんです。一生懸命生きようとして、一生懸命子育てもしようとした。でも、不器用だからうまくいかない…。そこがちゃんと想像できるように撮ったつもりです。「元夫とは一緒には暮らせないけれど、いい部分もある」と言う、加奈子の気持ちもそれを表しています。今回震災のことも描いたのは、町と一緒に彼自身も復活したかったのでは、という思いがありました。この兄がどういう人かというヒントは映画にいっぱい散りばめたので、あとは観た人に考えてもらえればと思います。