赤のパートカラーに込めたもの
Q:69年の日本を再現するのはいかがでしたか。
荒井:日本は外国と違って昔のことを再現するのは不可能に近い。モノクロを選んだのはそういうこと。60年代でこんな感じは何とかアリかな、みたいに妥協して探してもなかなか無いんですよね。道路の白い線はどうにもならなかったなぁ。観ている人が気にならなければいいんだけどね。撮っている側はやっぱり、あの白い線がね。ああいうのは昔は無かったなって。
Q:信号も今のLEDじゃない昔の信号が映っていました。
荒井:あれは静岡県の方まで撮りに行ったんだよ(笑)。
Q:赤信号もそうですが、赤のパートカラーがとても印象的で綺麗でした。
荒井:最初はもっと多かったんだよね。「ポストは赤くないんだね」って言う人がいたけど、ポストは結構出てくるんだよ。ちょっと存在感がありすぎるからね。主人公が見て感情が動くようなものを赤にしようという決め方です。
Q:紀子と交わるシーンで、背景がうっすら赤くなるシーンは現場でライティングしているのでしょうか。
荒井:西向きの部屋だったから、西日で部屋を真っ赤に染めてくれないかなと。鈴木清順ほどじゃなくていいからって注文しました(笑)。でも映画を観ても気がつかなかったって人がいて、「おいおい」って(笑)。

『星と月は天の穴』©2025「星と月は天の穴」製作委員会
Q:撮影の川上皓市さんにはその辺は事前にお伝えされているのでしょうか。
荒井:部分部分で赤くするよっていうのは最初から言っていました。興奮すると盲腸の傷跡が赤くなるというのが(原作に)あるので、まずはそこを赤くしようと。
Q:鉄塔を背景に並んで小便するシーンは素晴らしかったです。小便もこだわって撮られたそうですね。
荒井:いやぁ、だって難しいんだよ(笑)。男と女で放物線が違うからね。あれと陰毛の埃の固まりを作るのが一番時間が掛かった。装飾が作ってきたけど違ったから、助監督に「ちょっとスタッフの男の毛を抜いてこい」って。痛かっただろうけどね(笑)。
Q:鉄塔を背景にした画作りは、川上さんのアイデアですか。
荒井:あれは原作にあるので。あとは鉄塔を探しに…、千葉の柏とか遠くまで行ったなぁ。本当は、鉄塔を背景にシャーって小便を撮りたかったけれど、なかなか難しいね。綺麗な画にしようというのはあったんだけどね。