向かって左から撮影監督:青木穣氏、蔦哲一朗監督
『黒の牛』蔦哲一朗監督 × 撮影監督:青木穣 5年かけたロケハン、天候待ちに1年、65ミリフィルムでの撮影、妥協なき映画作り【Director’s Interview Vol.534】
時代を錯覚させる数々のロケーション
Q:様々なロケーションに圧倒されます。冒頭の山火事のシーンは実際のお祭りで本当に燃えているのですね。
蔦:地元の徳島で行われる「野焼き」です。毎年一度行われるのですが、風が強いとすぐに中止になるので、実際には3〜4年に一度しか開催されません。撮影しようとしていた2022年は天候判断で中止になり、翌2023年にようやく撮影できました。もし2023年もダメだったら、2024年まで待っていたかもしれません(笑)。
宮崎県の椎葉村にも有名な野焼きがあるので、そこに問い合わせると「ぜひ来てください」と言ってもらえたのですが、そちらでの撮影は時期が合わなかったので諦めました。
Q:火事の後に続くシーンは、別の場所で撮影されたのでしょうか。
蔦:その後のシーンは別途再現したロケ場所です。香川県にある湖の近くの、鵜飼の鵜が大量繁殖して荒れ果てた場所を山火事跡に見立てて撮りました。
青木:美術チームにかなり煙を焚いてもらって撮影しました。白黒だとうまく山火事跡に見えるんです。
蔦:イオンモールの裏にいい場所があったんです。まさに僕のロケハンの力かなと(笑)。
Q:男が住むことになる、池の前の藁葺き屋根の家は建てたのでしょうか。
蔦:あれは建てました。あの場所は元々湿原で、田んぼとして使っていたようなところでした。近くの集落で使われなくなった茅葺き屋根の家を解体し、その廃材を使ってオリジナルのオープンセットを建てています。美術の部谷京子さんは黒澤明作品なども手掛けられたすごい方でして、部谷さんに「縁側の外に池があって、直接入れるようにしたい」「牛小屋(まや)を室内に入れたい」といった僕の希望を反映して作ってもらいました。また、引き絵を撮れるように壁を外せるようにもしてもらっています。

『黒の牛』©NIKO NIKO FILM / MOOLIN FILMS / CINEMA INUTILE / CINERIC CREATIVE / FOURIER FILMS
Q:家屋に光が入る感じも美しかったですが、日の周りも計算されているのでしょうか。
青木:家屋内はデイシーンでも照明で作っていますが、屋外シーンはほぼ完全に自然光です。ロケ地は木々に囲まれていて方角的にも陽の周りはベストな条件ではなかったので、光が差す一瞬の隙を狙って撮影していきました。
Q:物語の途中、町で牛を貸し出すシーンが出てきますが、まるで『七人の侍』(54)の舞台のようで驚きました。
蔦:香川県の三豊市にある、かつて栄えた大地主の屋敷跡です。広い敷地が塀に囲まれていて、敷地の中に町があるような場所でした。壁が崩れている感じもリアルで、セットでは作れない雰囲気がありました。ロケハンで見つけたときは、つい塀を飛び越えて中を確認しに行きましたね(笑)。
Q:斜面に一本だけ木が生えている場所も象徴的で、抜群のロケーションでした。
蔦:あの場所は牛の“ふくよ”を実際に飼っていた方の放牧場なんです。そこに1本だけああいう象徴的な木が立っていて、とても良いなと。放牧場なので普通の人は入れない場所ですね。
Q:石が剥き出しになっている丘も素晴らしい場所でした。
蔦:あそこは四国のカルスト台地で有名な観光地です(笑)。ただし、観光客が見る側ではなく、その裏側にまわって撮影しています。