向かって左から撮影監督:青木穣氏、蔦哲一朗監督
『黒の牛』蔦哲一朗監督 × 撮影監督:青木穣 5年かけたロケハン、天候待ちに1年、65ミリフィルムでの撮影、妥協なき映画作り【Director’s Interview Vol.534】
フィルムでなければ映画作りは面白くない
Q:蔦監督はフィルムでしか映画を撮らないとのことですが、長年タッグを組んできた青木さんも同じ思いでしょうか。
青木:僕も同じ思いです。映画はフィルム以外で撮りたいとは思いません。
Q:お二人のフィルムへの思いをお聞かせください。
蔦:今はデジタルで撮影しても後処理でフィルム効果をつけることが可能。もはやルックの話ではなくなってきています。フィルムへのこだわりは、自分たちのアイデンティティみたいなところが大きい。自分がやりたいかどうかですね。皆がデジタルならフィルムでやる人も必要だろうという、天邪鬼な気持ちもあるかもしれません(笑)。
青木:僕の理由はもう少し純粋ですね(笑)。フィルムの画質が好きなのは言うまでもありませんが、撮影してもその場で見られないところが一番魅力的。その場で見られないぶん、撮るときに想像するんです。そして全てのプロセスが面倒臭いので、それゆえ集中力や研ぎ澄まされるものが全然違ってくる。デジタルで撮影されてもフィルムルックに仕上げる技術は年々進歩しています。もうどちらで撮ったのか全く分からなくなる日も近いかもしれません。それでも僕は、映画作りはフィルムじゃないと面白くないと思うんです。

『黒の牛』©NIKO NIKO FILM / MOOLIN FILMS / CINEMA INUTILE / CINERIC CREATIVE / FOURIER FILMS
Q:本作が体現する自然との関係性や体感という意味では、アプローチは全く違いますが、ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』シリーズと似ているものを感じます。
蔦:『アバター』は1作目しか観ていませんが、自然回帰という人間の願望みたいなものが反映されていますよね。僕らの世代は子供の時からジブリを観ているので、その辺はジブリから影響を受けているかもしれません。ただ一方で、そういった自然回帰に関して、僕らの世代は半分諦めているようなところもあります。自然と密接に生活したいと思っても現実的には難しい。現に僕も今は東京で生活していて、徳島には帰れていません。実際に地方に移住されて、自然の中で自給自足の生活をしている方もいます。自分もそうなりたいと思いつつも、帰れないという現実がある。そういう「自然との関係性を再構築したいと思いつつも出来ない」といったことが、ある意味で僕の映画の「切なさ」みたいなものとして表れていると思います。
将来的には人類はいなくなって、地球は違う世界になっているのではないか。草木や土、風や空など、地球上のあらゆるものに人類的なものが移っていくのではないか。それでもその世界は僕の中では希望になっているんです。
Q:完成した作品をスクリーンで観ていかがですか。
蔦:完成から公開まで1年ほど時間が空きましたが、良い意味で僕の意図とは関係なく広い解釈ができる作品になりました。だからあえて自分からは「こういう映画です」「こういうメッセージを伝えたい」とは言わないようにしようと。僕が普段考えていることが反映されてはいますが、見る人によって解釈や捉え方が変わるような、色んな感じ方をしてもらえる芸術作品になったと思います。
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監督/脚本/編集:蔦哲一朗
1984年、徳島県生まれ。祖父は、徳島・池田高校野球部を甲子園常連校へと導いた名監督・蔦文也。東京工芸大学で映画を学び、2013年、故郷・徳島県祖谷地方を舞台に35mmフィルムで撮影した長編デビュー作『祖谷物語 -おくのひと-』を発表。同作は東京国際映画祭でワールドプレミア上映され特別賞を受賞、その後、トロムソ国際映画祭オーロラ賞、パンアジア映画祭最優秀作品賞、香港国際映画祭審査員賞など、国内外で高い評価を得た。日本最後の秘境といわれる祖谷を舞台に、都市と自然のあいだで生きる若者たちの交流を通して、大地に根ざして生きることの尊さを描いた『祖谷物語』は、英国映画協会 (BFI)が選ぶ「1925年から現在までの日本映画ベスト」にて、2013年のベスト・ジャパニーズ・フィルムに選出されている。『黒の牛』は、『祖谷物語』に続く2作目の長編映画である。

撮影監督:青木穣
1984年生まれ。神奈川県出身。東京工芸大学芸術学部映像学科に入学。フィルム映画集団「ニコニコフィルム」のメンバーとして撮影に多く携わる。卒業後は東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻撮影照明領域に進学。2009年修了後、フリーランスで活動。撮影作品に真利子哲也監督『イエローキッド』、濱口竜介監督『永遠に君を愛す』、蔦哲一朗監督『夢の島』『祖谷物語 -おくのひと-』などがある。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『黒の牛』
1月23日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿K`s cinemaほか全国順次公開
配給:alfazbet、ニコニコフィルム、ムーリンプロダクション
©NIKO NIKO FILM / MOOLIN FILMS / CINEMA INUTILE / CINERIC CREATIVE / FOURIER FILMS