© 2025 185 FILMS, HAUT LES MAINS, MOMO FILM CO.
『ユースフル・ゴースト』ラッチャプーム・ブンバンチャーチョーク監督 ホラー&コメディから社会批判まで、予測不能な映画体験の秘密【Director’s Interview Vol.574】
歴史を想像しなおす、映画の倫理
Q:そのタランティーノ作品のように、歴史を想像しなおすことは、本作の政治性につながっています。そうした表現は、タイ国内でどのように受け止められましたか。
ブンバンチャーチョーク:驚いたことに、たくさんの観客から「勇敢で大胆な映画だ」という肯定的な評価を受けました。一方で「直接的すぎる」という批判もあり、上映中に退出する観客もいたと聞いています。ただ、この映画が分断を生み出したこと自体は受け入れています。観た人々を分けることも、この作品の役目だったと考えているからです。
当初、私が書いた脚本では、映画の結末はとても悲しいものでした。けれども後から読み返して、現実社会で勝てない人々が、映画という虚構の世界でも敗れてしまうことがつらく、本当に悲しかった。そのとき、現実と異なる物語を作るのは映画作家にとって倫理的な作業だと考えました。「現実と違いすぎる」という批判があったとしても、その仕事をすることが大切だと感じています。

『ユースフル・ゴースト』© 2025 185 FILMS, HAUT LES MAINS, MOMO FILM CO.
Q:本作の複雑な点は、弱い立場にある人物が、また別の弱い立場の人々を抑圧してしまう構造をも描いているところです。単にタイの政治を見つめるだけでなく、この構造を現在のタイの観客に対して表現したかったということですよね。
ブンバンチャーチョーク:その通りです。私は中華系タイ人三世で、祖父は1949年にタイへ移住してきました。祖父や父の時代には、私の家族は貧しい移民として扱われていたのです。けれども現在、タイ系中国人のコミュニティは大きな力を持っています。人口こそ少なくとも、経済的・文化的な力は非常に強い。いまやバンコクは、中華系タイ人がたくさん暮らしている巨大なチャイナタウンです。
タイへ初めて移住した当時、彼らはひどい扱いを受け、差別を受けていた。それが今では、中華系タイ人のほとんどが中産階級になり、保守的になり、権威側に立って他の移民を差別しています。皮肉なことに、かつての被害者が加害者となったのです。このタイという国では、マイノリティが権威の側に立つように追い込まれ、そして加害者になっていった……その軌跡と構造を自分なりに解釈し、この映画を通して伝えようと思いました。
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監督/脚本:ラッチャプーム・ブンバンチャーチョーク
1987年、タイ・バンコク出身。潮州・海南系の出自を持つ。チュラーロンコーン大学映画学科卒業。現在はスタジオでフルタイムの脚本家として働き、商業映画やテレビシリーズの脚本を手掛けている。脚本執筆の他に、大学で映画理論や脚本術を教え、映画批評家としても活動している。第30回 釜山国際映画祭アジアン短編コンペティションおよび第15回グラスゴー短編映画祭で審査員も務めた。2020年、ベルリナーレ・タレントプログラムに選ばれ参加。短編映画『赤いアニンシー; あるいはいまだに揺れるベルリンの壁をつま先で歩く』は2020年ロカルノ国際映画祭に選出され、短編映画部門の国際コンペティションでヤング審査員賞を受賞。近年はタイの植民地史とポストコロニアルの状況をテーマに、さまざまな長さの映画シリーズを作るプロジェクトに取り組んでいる。
取材・文:稲垣貴俊
ライター/編集者。主に海外作品を中心に、映画評論・コラム・インタビューなどを幅広く執筆するほか、ウェブメディアの編集者としても活動。映画パンフレット・雑誌・書籍・ウェブ媒体などに寄稿多数。国内舞台作品のリサーチやコンサルティングも務める。
『ユースフル・ゴースト』
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー中
配給:SUNDAE
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