© 2025 185 FILMS, HAUT LES MAINS, MOMO FILM CO.
『ユースフル・ゴースト』ラッチャプーム・ブンバンチャーチョーク監督 ホラー&コメディから社会批判まで、予測不能な映画体験の秘密【Director’s Interview Vol.574】
亡くなった妻の魂が掃除機に宿り、夫のもとへ帰ってくる……。タイ映画『ユースフル・ゴースト』は、第78回カンヌ国際映画祭の批評家週間でグランプリを受賞した、ラッチャプーム・ブンバンチャーチョーク監督の長編デビュー作だ。
驚かされるのは、奇抜な設定がただのユーモアに終わらず、ホラーやコメディ、ラブストーリー、さらにはシビアな政治寓話までも自在に越境する物語の、強烈かつパワフルなエンジンとなっていること。タイの古典的な怪談を着想源として、予測不能な映画体験へと観客を誘った新鋭に、創作の発想とプロセスを聞いた。
『ユースフル・ゴースト』あらすじ
粉じん公害が深刻化するタイ・バンコク。最愛の妻・ナットを呼吸器疾患で亡くしたマーチは悲嘆に暮れる日々を送っていた。ある日、ナットの魂は掃除機に宿るかたちで舞い戻り、ふたたび愛を確かめ合う二人。しかし一方、マーチの家族が経営する工場では、死亡した従業員の霊が機械に取り憑き、操業停止に追い込まれていた。霊に悩まされる家族から拒絶されたナットは、工場の除霊に協力することで、夫への真実の愛そして自らの存在を“役に立つ幽霊”だと証明しようとするが……。
Index
有名な怪談を覆し、観客の予想で遊ぶ
Q:本作の出発点には、タイの有名な伝説「メー・ナーク」があります。なぜ、作品の出発点にこの伝説を選んだのでしょうか。
ブンバンチャーチョーク:私は以前、タイにおける植民地主義の歴史を扱った短編映画3部作を撮りました。歴史上の人物や、有名文学のキャラクターなど、タイでよく知られる人物に新たな側面から光を当て、そのイメージを覆すことは、私のなかで短編時代から一貫しているアプローチ。『ユースフル・ゴースト』は初めて撮る長編映画なので、同じ方法を採ろうと考えました。
「メー・ナーク」とは、幽霊の妻が、生きている夫と禁断の愛を深めていくという伝説で、タイでは何度も映画化・テレビドラマ化されています。「メー・ナーク」を使えば観客が物語に入り込みやすく、しかも既存のイメージを覆すことで物語の可能性を開拓できると思いました。人間と幽霊のふたりが一緒にいようとする物語から出発し、映画をどこまで遠くへ飛ばせるか……そのように発想を広げていったのです。

『ユースフル・ゴースト』© 2025 185 FILMS, HAUT LES MAINS, MOMO FILM CO.
Q:本作はホラーのように始まり、ありとあらゆるジャンルを横断していきます。これは当初から狙っていたものだったのか、それとも脚本を執筆するなかで必然的にそうなっていったのでしょうか。
ブンバンチャーチョーク:私は観客の期待で遊ぶのが好きで、サプライズや遊び心を大切にしています。だから、「5分後の展開が予想できなかった」と言ってもらえるとうれしい(笑)。ただ、ジャンルを超えることがそのひとつだったのか、私が意図していたのかは自分ではわかりません。はっきりと意識していたのは、観客の期待や予想で遊ぶことだけです。