目指したのは「和洋折衷ホラー」
Q:一番聞きたかったのが、劇中に出てくる警官の目線についてです。実際に撮っているのか、それともCGなのか、ものすごく不気味で恐ろしかったです。
西山:そこに注目していただけるのはめちゃくちゃ嬉しいです! 視線の話をされることは多いのですが、特筆して「警官の目線」について聞いていただいたのは初めてかもしれません。あれはCGではなく、本当に撮影しているんです。
Q:目が大きい人をキャスティングされたのでしょうか。
西山:いえいえ、目が大きい人を選んでのキャスティングではなく、演じていただいた酒井貴浩さんは、ホラー作品への出演経験のない俳優さんです。元々同じ愛媛出身ということで知り合いになり、警官役に良いのではないかと出演をお願いしました。 あのシーンで僕が特にこだわったのが、「目線の高さ」です。人間の目は、目全体が見えている状態だと怖さを感じないのですが、一部が遮蔽されて「目が全体としてどれくらい大きいか分からない(まぶたの上などが見えない)」状態になると、不気味な違和感を覚える。現場では、僕がモニターを見ながらカメラの位置を調整し、酒井さんにはお芝居をしながら主人公のエレナを見る時に、「目線をこの高さまで上げてください」と少しずつ首を上げてもらいました。役者さんにとってはやりづらかったと思いますが、「これ以上は目線を上げないでください」と細かく指示を出してテイクを重ねました。パッと見上げた瞬間に目が見えすぎたり、逆に見えなさすぎたりするので、何度もリテイクを重ねてあのショットにたどり着きました。
Q:ジャンプスケア(大きな音などで驚かせる手法)と心理的な恐怖のバランスが絶妙でした。演出のこだわりを教えてください。
西山:前提として、僕は従来のジャンプスケアがあまり好きではありませんでした。本来そこまで大きく鳴らないはずの音を、観客を驚かせるためだけに大きくするという、映画としての嘘に抵抗があったんです。ただ、恐怖演出としての効果が高いことは事実なので、それを肯定できる理由を見つけたいと10代の頃から考えていました。
そこで、「イヤホンからしか聞こえない」という設定を取り入れました。イヤホンをしている時はダイレクトに100%の大きな音が鳴っても不自然ではない。逆にイヤホンを外すと音がゼロになる。この落差を利用すれば、嘘をつかずにジャンプスケアのような演出が可能になります。ASMR的な音響効果を取り入れた新しい即物的なホラーと、アイデンティティや差別といった人間の心理的な怖さ(Jホラー的要素)をミックスした、「和洋折衷ホラー」を目指しました。

『インビジブルハーフ』Ⓒ 2025 Test 8 Pictures All Rights Reserved.
Q:これまでに多くの短編を撮られてきましたが、初の長編映画への挑戦はいかがでしたか。
西山:自主制作だったこともあり、商業映画以上に自分が直接動かないと進まない部分が多く、道のりは本当に長かったです。多くの人の協力があったとはいえ、気持ちとしては「6年間走り続けた1人マラソン」でした。時間はかかりましたが、自分が思い描いていた表現を形にして最後まで走り切れたことは、次回作への大きな自信に繋がりました。
Q:中高生のころから映画を撮られて、25歳で本作を完成させました。早い段階で華々しくデビューしているようなイメージもありますが、ご自身の監督としてのキャリア設計は順調ですか。
西山:いえ、正直遅いと思っています。映画を専門に学ぶ大学に行っていれば、卒業制作として22〜23歳で長編を撮るものだと勝手に想像していました。だから「22歳までに長編を撮らなきゃ」と設計していたのですが、脚本ができた21歳の段階で「それは無理だ」と悟りました(笑)。
作品作りに時間がかかるタイプなので、5年ほど遅れている感覚があります。もっと早く、たくさんの作品を作って色々な人に届けたいという焦りもありますが、同時に、自分が納得できるクオリティまで引き上げたいという思いも強い。今の制作スタイルは自分の性に合っていると思いますが、10代の頃に思い描いていた理想には、まだまだ辿り着いていません。
『インビジブルハーフ』を今すぐ予約する↓

監督/脚本/編集:西山将貴
1999年、愛媛県生まれ。14歳より自主映画制作を開始。高校在学中に制作した初監督作品がショートショートフィルムフェスティバル&アジア2019に選出。2021年、スマートフォン視聴向けに設計された縦型ホラー短編『スマホラー!』(主演:鳴海唯)がコロナ禍において国内外で広く注目を集め、ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2021 バーティカルシアター部門最優秀作品賞。第25回ロサンゼルス国際短編映画祭ホラー部門に同映画祭史上初の縦型映画としてノミネート。2022年、MBS70周年記念ドラマ「インバージョン」(出演:兵頭功海、綱啓永、出口夏希)にて、22歳で地上波ドラマ監督デビュー。2025年には、作家・背筋(『近畿地方のある場所について』『口に関するアンケート』)と脚本家・佐藤直子(『SILENT HILL』『SIREN』)と共同企画した体験型ホラー展示「1999展 ―存在しないあの日の記憶―」がSNSで話題を呼び、10万人以上を動員した。2026年3月には短編クリーチャーホラー『インフルエンサーゴースト』(出演:西野七瀬、本郷奏多)が公開。7月に全国公開となる本作『インビジブルハーフ』で長編映画監督デビュー。23歳の時に撮影した本作は、自主制作作品ながら第33回レインダンス映画祭に選出、第19回田辺・弁慶映画祭にて三冠を受賞するなど、国内外の映画祭で話題となる。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『インビジブルハーフ』
7月31日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
配給:ギークピクチュアズ
Ⓒ 2025 Test 8 Pictures All Rights Reserved.