向かって左からラース・ローヴェン監督、デニス・ハーヴェイ監督 © Locarno Film Festival / Ti-Press
『ケルト・ユートピア』デニス・ハーヴェイ監督 & ラース・ローヴェン監督 未来のために過去にも向き合う【Director’s Interview Vol.582】
未来を夢見る、進歩的な若者たち
Q:ハーヴェイさんは91年生まれで今は30代半ばですよね。ハーヴェイさんの世代はそういった自国の負の歴史を身近に感じながら育ってきたのでしょうか。
ハーヴェイ:とてもいい質問ですが、その答えは複雑です。僕が小さかった頃は、漠然とですが、アイルランドで紛争が起きていることに気づいていました。僕はダブリン育ちで、北アイルランドのベルファストはわずか2時間の距離。テレビのニュースでは、ベルファストでカトリックの子どもたちがロイヤリスト(親英国派)やプロテスタントの大人から石を投げられる様子が報道されていました。自分と変わらない年齢の子どもたちが、政治的な理由で攻撃されているのを見てすごく混乱したのを覚えています。
でも、当時はそれが何なのかを言い表す語彙力を持ち合わせていなかったし、植民地主義に起因していることも理解できませんでした。さらにいえば、北アイルランドは未だに英国に支配されていて、ポスト植民地ですらありません。僕らが生きている間に解決されてほしいと思っています。
この映画には、アイルランド語を学んでいる子どもたちが登場します。彼らに「アイルランド語で、植民地主義はどう言うの?」と質問したのですが、ほとんどの子たちが答えられず、僕自身もその答えを知りませんでした。つまり、僕ら全員がまさに変化のプロセスにいるんだと思うんです。成長していく中で、次第に政治的なものに目覚め、植民地支配にまつわる物語を知り、アイルランドが植民地主義からポスト植民地主義へと移り変わる過程にあるのだと気づくようになりました。
もちろん昔からこういう議論はありました。優れた文学作品が生まれ、歴史的な分析もされてきました。でもこの映画では、もっと若い人たちの間で新しい意識が生まれている現状を描こうとしています。そして、その動きが世代を超えた広がりを見せていて、人々が自国の歴史について考え直し、よりオープンに話すようになりました。ただ歴史の複雑さにため息をつく時代とは違ってきているんです。

『ケルト・ユートピア』© MDEMC & SVERIGES TELEVISION SVT 2025
Q:新しい世代から始まった変化は、すでに社会的なムーブメントになっているのですか。それとも、この映画を通じて後押ししたい気持ちがあったのでしょうか。
ハーヴェイ:どちらとも言えますね。僕らは目の前に素晴らしい音楽シーンがあり、政治的なミュージシャンと、政治的なムーブメントに自覚的なミュージシャンたちがいることに注目していました。ただそれは散発的なもので、さほど政治的意識が高くないミュージシャンもいます。だからこそ、僕たちは現状をそのまま映し出したかったんです。
その一方で、こういった類の映画を作るなら、すべての要素を凝縮して、この国についてのある種の理解を導き出す必要がある。でも、それが政党のパンフレットのようになってはいけない。僕たちは、人々の口に政治的なイデオロギーを無理やり押し込みたいわけじゃない。この映画の観客には、思考を巡らせたり疑問を持ったりする余地を残したいんです。そして願わくは、より良い世の中になる可能性を感じて欲しい。この映画で取り上げた、より良い未来を夢見る進歩的な若者たちの存在が、事態を改善してくれると思っているんです。
とはいえ、観客それぞれが自分の政治的信条を持ち込んでもらって構わないですし、むしろそれによって、我々の政治的状況を前進させたいと願っています。
ローヴェン:本当にその通りです。多くの映画は登場人物を絞り込んでいきますが、そのせいで単純化に陥ってしまうことがある。僕たちはこの映画をもっと複雑に、そしてもっと行間を残すように心がけながら作りました。