向かって左からラース・ローヴェン監督、デニス・ハーヴェイ監督 © Locarno Film Festival / Ti-Press
『ケルト・ユートピア』デニス・ハーヴェイ監督 & ラース・ローヴェン監督 未来のために過去にも向き合う【Director’s Interview Vol.582】
フォークミュージックの定義を拡張する
Q:この映画で扱っている音楽は、伝統的なものからヒップホップまでさまざまなジャンルが混ざり合っています。おそらく「何をもってフォークミュージックとするのか」を探っていく作業があったと思うのですが、この映画でたどり着いた定義を教えていただけますか。
ローヴェン:それこそが僕たちがこの映画で目指したことです。実際、この映画を作り始めたときにも、すでに存在している認識を繰り返すことで定義を狭めたくないと話していました。僕たちは、地元に根ざしたフォークミュージックとして機能しているのであれば、どんな音楽でも含めたいと思っていました。
アイルランドのコミュニティに関わり、現在の社会で起きていることについて語っていて、それが人々のアイデンティティにとって意味を持っているなら、それは時代を超越するフォークミュージックだと思います。なぜなら、フォークミュージックはひとつの形に囚われるものではないからです。
昔から変わらない形式を持つトラディショナルな音楽と違って、常に変化し、発展し、流動的で、新しい影響によって新しい曲が生まれ、世界を巡る。それがフォークミュージックの在り方だと思うんです。場所がどこであれ、人々と共振し、入ってくる人もいれば出ていく人もいる。そこで生まれる音楽がフォークミュージックだと思いますし、人生や生活について語っているヒップホップも、世間がフォークミュージックだと思っている音楽の大半より、はるかにフォークミュージックじゃないかと思うんです。

『ケルト・ユートピア』© MDEMC & SVERIGES TELEVISION SVT 2025
ハーヴェイ:音楽雑誌の「The Wire」がとてもステキなレビューを掲載してくれたのですが、記者がひとつの疑問を投げかけていました。僕たちがこの映画で、フォークミュージックの定義を広げすぎてはいないかと。でもそれって、僕たちが音楽の定義を拡張することに成功したからかもしれないと思ったんです。
この映画では、今日のアイルランドも映し出そうとしています。そこにはチチのようなアフロ系のアイルランド人もいれば、ヤング・スペンサーのようにロイヤリストのバックグラウンドを持った北アイルランドのラッパーもいる。それが、現在のアイルランドの姿なんです。
おそらくアイルランドは世間の人々が思い描くような国ではないし、アイルランド音楽も多種多様です。それに合わせてアイルランドのフォークミュージックも変化していく。でも、これは開かれた問いかけですから、どんな解釈や意見もありだと思います。