向かって左からラース・ローヴェン監督、デニス・ハーヴェイ監督 © Locarno Film Festival / Ti-Press
『ケルト・ユートピア』デニス・ハーヴェイ監督 & ラース・ローヴェン監督 未来のために過去にも向き合う【Director’s Interview Vol.582】
音楽と政治は切り離すべきか。近年しばしば騒ぎになっているトピックだが、ドキュメンタリー映画『ケルト・ユートピア』(25)の見解は明快だ。近年のアイルランドのフォークリバイバルのムーブメントを追いかけた本作の答えはひとつ、「音楽と政治は、切り離そうにも切り離せない」である。
アイルランド音楽といえば、ヨーロッパの民族音楽の代名詞のようになっているアイリッシュトラッドから、エンヤのような幻想的なポップ、U2やフォンテインズD.C.ら世界的に成功したロックバンドまで幅広い。政治的には約100年前にイギリスから独立したが、北アイルランドはいまもなお英国領であり、国の分断によってテロの温床となったのは昔話ではない。1972年の「血の日曜日事件」を歌ったU2のプロテストソング「ブラディ・サンデー」を例に挙げるまでもなく、数多くのミュージシャンが苦難の歴史をもとにして音楽を紡いできた。そして今、若い世代のミュージシャンが自分たちの歴史やルーツに立ち返り、新たなフォークミュージックを生み出しているという。
『ケルト・ユートピア』の共同監督を務めた、アイルランド出身のデニス・ハーヴェイとスウェーデン人の映像作家ラース・ロヴェーンに話を聞いた。
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アイルランドを新鮮な目で見てもらう
Q:とても好奇心を刺激される作品でした。同時に自分がアイルランドという国を、娯楽映画やポップミュージックから得た曖昧なイメージでしか捉えていなかったことを痛感しました。
ハーヴェイ:そう思ってもらえてすごく嬉しいです。というのも、この映画は、外側の人たちがアイルランドに抱いている先入観に挑戦するつもりで作ったからです。同時にアイルランドの歴史や、この映画で提示しているアイルランドにまつわる諸問題について、若い世代の視点からのオルタナティブな見方も提供しています。僕らはアイルランドを新鮮な目で見てもらいたいんです。
ローヴェン:実際、この映画を観た大勢の方が、同じようなリアクションをしてくれています。

『ケルト・ユートピア』© MDEMC & SVERIGES TELEVISION SVT 2025
Q:この映画では、世間がアイルランドと聞いて思い浮かべるようなミュージシャンはほとんど言及されませんね。登場するミュージシャンたちは、U2とかシン・リジィとかザ・ポーグスのようなメジャーな存在とはまた違った文脈で活動していると考えていいのでしょうか。
ローヴェン:いまポーグスの名前が出ましたが、彼らは私たちの映画で取り上げたアーティストたちと非常に近いことをやっていたと思います。実際、彼らの多くはポーグスのことをトラディショナルと新しいものをかけ合わせたパイオニアとして非常に尊敬していて、間違いなく通じるものがあると思っています。
Q:個人的にポーグスの大ファンなので、それを聞けて嬉しいです。
ハーヴェイ:僕たちもポーグスの大ファンですよ(笑)。ランクムのダラグ・リンチや、この映画には出ていませんがジョン・フランシス・フリンら若い世代のアーティストが、ポーグスのデビュー40周年記念ツアーではゲストボーカリストとして共演していましたし、クロスオーバーしている部分はかなりあります。
Q:映画の中では世に知られたアーティストとしてはニーキャップが少し言及されるくらいで、孤立しているとまでは言わなくとも旧世代とは切り離されたシーンかと思い込んでしまっていたので、コネクションがあるとわかって良かったです。
ハーヴェイ:プランクシティやポーグスやダブリナーズは、70年代や80年代にアイルランドの伝統音楽を捉え直し、反骨精神に満ちた新しい音楽を生み出しました。ランクムやザ・メリー・ワロパーズ、プア・クリーチャーらは、奏でている音はそれぞれ違っているけれど、彼らに大きな影響を受けた、同じ文脈にいるバンドだと思います。僕らはそういうバンドが大好きなんです。