スマホの向こう側に実在するヒーローたち
Q:劇中、亡くなった方の写真が壁に貼られていましたが、あれは赤新月社の方々が実際にされていたことなのでしょうか。
ベン・ハニア:そうです。赤新月社の場面は、実際に彼らのオフィスを再現して作り上げました。ヒンドの事件の直後にも、イスラエル軍がガザで殺戮を行い、15名の救急隊員を殺害したという大きな事件がありました。他にも同様の事例がたくさんあって、多くの救急隊員が命を落としています。そういうことも含め、赤新月社はまるで墓地のようでした。
Q:赤新月社のスタッフ、オマールとマフディがゲームをする場面や、ラナとニスリーンが二人で語り合う場面なども実際にあった出来事を再現されているのでしょうか。
ベン・ハニア:その通りです。映画を作るにあたり、あの日、赤新月社のオフィスで何が起きたのかを知る必要がありました。実際の録音データがあったので、それを基に彼ら一人一人の証言を聞き、具体的に何をしたのかを詳しく語ってもらいました。彼らが過ごした長い一日について、実に多くのことを話してくれました。私の主な仕事は、そうした証言を編集し、ヒンド・ラジャブの声や録音データの説得力を高めるような瞬間を選び出すことでした。

『ヒンド・ラジャブの声』Ⓒ MIME FILMS - TANIT FILMS
Q:スマホで実際の映像が映されるシーンは、現実に引き戻される恐ろしさがありながらも、スマホがあれば「一人一人が記録や発信ができる」という希望のようなものも感じました。映像をスクリーン全体に映さず、スマホの画面を映したことに込めた思いを教えてください。
ベン・ハニア:本作を描くにあたって物語の素材を集めていた際、あの瞬間に行き当たりました。あらゆる苦難の末に派遣された救急隊員が、現場の目と鼻の先まで迫りながら、連絡が途絶えてしまう。電話越しに爆撃の音が聞こえてくるのです。「もうすぐ到着するはずだ」と、希望を抱いている矢先に爆発音が響き、「いや、そんなはずはない」と否定したくなる。
しかし、「これは事実なのだ」と私は伝えなければならないと思いました。その証拠として、スマホの画面を映すことを選びました。あのシーンは、脚本家の想像力から生まれたものではなく、実際に起きた出来事なのです。俳優たちは本当のヒーローを演じている、そしてスマホの向こう側にいるのが実在するヒーローたちなんです。