向かって左から主演:トニ・プロトニ・ヤルヴィネン氏、ヘッラ・ウルッポ監督、プロデューサー:ミカ・ラッティ氏
『クロノス・カイロス』ヘッラ・ウルッポ監督 × プロデューサー:ミカ・ラッティ × 主演:トニ・プロトニ・ヤルヴィネン 映画作りは、砂場遊びのようなもの【Director’s Interview Vol.588】
日常を超越した夢のような感覚を映像化
Q:スペインのアンダルシア地方で撮影されたそうですが、フィンランドとはかなりの距離があります。撮影期間もまとまっていなかったとのことですが、どのように進められたのでしょうか。
ウルッポ:本作では照明を使わず、すべて自然光で撮影していきました。撮影に時間を要した理由の一つには、そうしたやり方を採用したことも関係しています。私にとって自然光、とりわけ「ブルーモーメント(日の出直前と日没直後)」の時間帯に撮影を行うことは極めて重要でした。「ブルーモーメント」は1日にほんの数分間しか見れないので、撮影のために、私は家族とアンダルシアへ移住する必要もありました。
アンダルシアでは、太陽が山の向こうに沈むために、日没の時間はほんのわずかです。しかし、「ブルーモーメント」が訪れて光が完璧な状態になったときは、最高の気分になって胸が高鳴ります。その一瞬を確実に捉えるために、何度もシミュレーションを行いました。
同じ手法で撮影された『レヴェナント: 蘇えりし者』(15)はアカデミー賞の撮影賞を受賞しています。私たちは今のところ、受賞していませんが(笑)。
Q:脚本がない中での撮影は、主演のヤルヴィネンさんにとってどんな体験でしたか。
ヤルヴィネン:監督が撮影と対話のリズムを掴んでからは、演じることが楽になりましたし、作品も自然と形になっていきました。私たちはかなり直感的に動いていました。「ブルーモーメントだ、今すぐ撮ろう」と急に撮影することもありました。
本作屈指の素晴らしいカットになったと思っているのは、私がタイヤの上に裸で横たわっているシーンです。光がなくなる直前のわずか6分ほどで撮影しました。撮影スケジュールや、どこで何をするのかという大まかな計画はありましたが、実際は直感に従って撮影を進めていきました。

『クロノス・カイロス』
Q:タコや機械など、本作で描かれる様々なモチーフが異物として機能し、アンダルシアの山岳地帯と相まって、映像の美しさを際立たせていたように思います。
ウルッポ:私にとってあまりにも日常的な場所だったこともあり、フィンランドでは撮影したくなかったのです。フィンランドを離れて、何か魔法のようなものに出会いたかった。
スペインでのある光景を覚えています。砂漠のような風景の中に、ガソリンスタンドとゴミ箱がポツンとある。私にはそのゴミ箱が信じられないほどエキゾチックで、独特の雰囲気をまとって見えました。自分が住んでいるフィンランドだったら、きっと目にも留めなかったでしょう。つまり、日常から自分を切り離すことが大切だったのです。
日本にいると、現実の国ではなく、まるで夢の世界にいるような気分になります。だからこそ、一瞬の出来事の中にもエキゾチックなものを見出せる。こうして話している瞬間でさえ、私には映画のワンシーンに思えます。もし私がフィンランドのパブで同じように話していたら、ただの日常の風景に過ぎなかったのでしょう。でも、ここでは夢の中にいるような気分になれる。『クロノス・カイロス』に描かれる数々のイメージは、そんな感覚に基づいているのです。別れに伴う感情を映し出す、魔法のような世界にしたかった。
本作で描かれている夢のような雰囲気は、別れや家族の崩壊といった人生の危機に直面した時の精神状態を映し出しています。実際には存在しない物語を脳が作り出してしまうような、ある種の「ナラティブ(語り)」のようなものです。危機の中で、私たちの内側に湧き上がる感情は、決してありふれたものではない。だからこそ、日常を超越した夢のような感覚として映像化する必要があったのです。