カラカラに乾かした映画を作る
金子:ラストシーンで赤ん坊の鳴き声がずっとしてますよね。室内のシーンでも、フレーム外で遊ぶ子供の声が聞こえます。あれは意識的にやられたのでしょうか。
矢崎:状況音に子どもの声が多いのは、当時は子どもが外で遊んでた時代だったような気がするんですよ。今は公園でも道路でも、遊んでる子どもはそんな見ないよね。
金子:そうです。危ないですもんね。
矢崎:しかも、公園でボール禁止、花火禁止みたいになってるもんね。
金子:どんどん禁止になっていきますね。
矢崎:あの当時は本当に、外で子どもが遊んでたなって。だから映画の中でもすごくタイミングよく子どもがいたりするけど、エキストラではなく、本当にそこにいた子どもなんですよね。
金子:花屋の男の子とかも、あれ、役者さんじゃないですよね。
矢崎:そうです。
金子:あの子の動き面白かった。
矢崎:花屋さんの子どもでしょうね。だから自分がプラン立てて撮ったっていうよりは、偶然も多いんですよ。さっき話した雨の乳母車のシーンも、人工的に雨を降らす「雨降らし」って知らなかったから、雨が降ったら雨のシーンを撮ろうみたいな感じでしたね。それで、雨が降ったんで撮りに行ったら、撮影の石井勲さんが「このぐらいの雨量だと映らない」って言ったんです。「じゃあスローモーションにしたら、映るチャンスがコマ数の分だけ多くなるんじゃないか」って、それでスローモーションになっているんです。
ーーそういう理由だったんですか。
金子:へえ、すごい。
矢崎:花のシーンも、部屋に敷き詰めた花が枯れて腐っていく変化があまり分からないってなって、「じゃあここはカラーにしようか」っていうような、実はそんな理由なんですよね。あまり考えてた訳ではないんです(笑)。
ーーそれがちゃんとはまってるっていうのが、すごいですね。
金子:重たい話なのにずっしりならないのは、そういう演出の軽快さみたいなものがあるからかもしれないですね。
矢崎:そこは、すごく心掛けましたね。夏子を演じた綾せつこさんが、「矢崎さんの映画って、お寺の高い屋根に石を投げるじゃない、コロコロって瓦屋根の上を転がる音だけを皆が聞いてるんだけど、石が屋根から落ちると静かになって、最後に、ポトンと落ちる音を皆が耳をそばだてて待っているみたいな映画だよね。」って言ってくれたんだよね。
いわゆる日本人的な湿っぽいものに反発してたんで、だから逆にすごい湿っぽい題材を選んで、これをすごくカラカラに乾かした映画を作ろうっていうのが、自分の中にあったんです。だから「屋根をコロコロって転がってる石のような映画だよね」っていうのがすごく印象的だった。