映画の隣に座ればいいんだよ
矢崎:今日は金子さんに会えて嬉しかったですよ。以前にお会いしたときは学生だったのが、ちゃんと監督になってるんだもの。
金子:私も、めちゃくちゃうれしいです。
矢崎:『21世紀の女の子』はどうですか。ほかの監督の作品と比べたりしますか。
金子:もちろん最初に見てるときは不安で、「やっぱりみんなすごいな、さすがだな」とか思いながら見てたんですけど、最後に流れた山戸監督からの手紙のような映画を見た瞬間に、彼女が優劣を一蹴してくれました。ただ女性が女性を撮った、その事実の力強さを感じました。
矢崎:テーマにある「ジェンダー」とかは、相当考えて作ったの?
金子:グラビアやポルノなど、女性の「見られる」その裸は誰のためにあるんだろうと思うことがありました。それを否定するつもりは無く、18歳の時に私自身が裸を撮影してもらった体験があって、社会性や意味を脱いだ、容れ物の状態を撮られ、その写真を見た時に美しいと感じたんです。性的ではなく生的に美しい女性の裸もあるはずだと思い、映画を作りました。
矢崎:エキストラの演出にも時間かかったって言ってたけど、いつもシナリオの中には書かれてるの?
金子:そうですね。大体書いてますね。喫茶店とか行くと、周りの会話を聞いてメモしたりしてるのですが、その感覚でいうと、もっとノイズがある方がいいなと思って、現場で会話させたのに加えて、アフレコで女子高生の会話を追加したりしました。
矢崎:面白かったですよ。また最後に出てくるの喫茶店の、、
金子:マスター。
矢崎:あれなんかいいよね。
金子:うれしい。私もあのショットが一番好きです。マスターとか、かっちりとした制服を着ている人の、素の状態が見える瞬間も、映画が生まれる瞬間って感じがするんですよね。
矢崎:面白かったな。
金子:ありがとうございます。頑張ります。頑張りますっていうか、肩肘張らずに映画に向き合える気がします。普段から生活の中に映画や映画制作を交差できるはずだって。
矢崎:毎朝目覚めて、台所の光がすごくきれいだなとかってあるじゃない?
金子:あります!そう、放ってるって思う瞬間ってある。そうですよね、美しいですよね。すごい、まさに「映画」ですね。
ーーそろそろ締めになりますが、これからご覧になるお客さんに『風たちの午後』についてメッセージをいただければと。
矢崎:この試写の後、小説家の保坂和志さんからメールが来て「当時よりも今見た方が面白い、っていうか、来るものがあると思う。」って言ってくれて、すごくうれしいんですけどね。でも一方で果たしてどうなんだろうっていう、不安だけです。今までずっと手を隠すことをやってきたんだけど、この作品は手を隠してないんですよね。
金子:手を隠す?
矢崎:作り手側の「手」が見えるっていうね。手を見せっぱなしみたいな映画だから、今観るとすごく恥ずかしいです。
金子:ええっ、全然そんなことないですよ!
ーー金子さん、いかがですか。
金子:大衆に向けて制作された映画が多い中、この映画は夏子と美津二人だけのために作られた映画という印象を私は受けました。共感や没入を求めずに、スクリーンをただ観て欲しいって思います。
矢崎:金子さんの次回作は動き出しているんですか。
金子:そうなんですよ。次は、死者をストーキングする話を撮りたくて。
矢崎:楽しみですよ、僕は。
金子:今日はお話を聞いてとても勉強になりました。
矢崎:本当?
金子:勉強になるっていうか、肩の力を抜いてもらった気がします。「大丈夫だよ」って。
矢崎:そうだと思う。映画と対面して座る必要なくて、映画の隣に座ればいいんだよね。
金子:名言!
ーー今日は名言がいっぱい出ますね。
金子:名言がポンポン出てくる!「映画の隣に座る。」そうですね。
矢崎:新作、楽しみにしてますので。
金子:ありがとうございます。
矢崎:今日はどうもありがとう。
監督:矢崎仁司
山梨県出身。日本大学芸術学部映画学科在学中に、『風たちの午後』(80)で監督デビュー。2作目の『三月のライオン』(92)はベルリン国際映画祭ほか世界各国の映画祭で上映され、ベルギー王室主催ルイス・ブニュエルの「黄金時代」賞を受賞するなど、国際的に高い評価を得た。95年、文化庁芸術家海外研修員として渡英し、ロンドンを舞台にした『花を摘む少女 虫を殺す少女』を監督。そのほか監督作品に、『ストロベリーショートケイクス』(06)、『スイートリトルライズ』(10)、『不倫純愛』(11)、『1+1=1 1』(12)、『太陽の坐る場所』(14)、『××× KISS KISS KISS』(15)、『無伴奏』(16)『スティルライフオブメモリーズ』(18)などがある。
監督:金子由里奈
1995年生まれ、東京都出身。京都府在住。立命館大学映画部にて映像制作と出会う。映画やMVの監督を手掛け、今年5月には、監督が主演と撮影をする映画祭「自撮り映画祭」を主催。「21世紀の女の子」公募枠に選出。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
『風たちの午後 デジタルリマスター版』
2019年3月2日より新宿ケイズシネマ、アップリンク吉祥寺他、全国順次公開。
宣伝・配給:映画24区