今の会話、僕に聞こえるからNG
ーー湿っぽい題材だけど、カラカラに乾いてるって、すごく分かる気がします。当時の評判、どうだったんですか。
矢崎:当時は、とにかく音の小ささに関して色んな所で苦情が来たね(笑)、実際にフィルムだけ渡してしまうと、音量上げられてしまうので、上映に全部立ち会った。
金子:そうなんですね。
矢崎:日本中必ず上映先に行って、僕が音量を調節してたんです。だから一番困ったのが、海外のエジンバラ映画祭。「いや、僕も絶対行って、音量合わせないと」っていうのがあったんで、現地の映写技師にお土産持っていって、音量の調節させてもらったんだけどね。
金子:お土産、大事ですね(笑)。
矢崎:音量が小さいって、初めは聞こえないなってイライラすると思うんだけど、しばらくして聞くの諦めたころから、心地よくなるんじゃないかなと。
金子:まさにそんな感じでした。
矢崎:映画館に黙って座っちゃえば、全部説明してもらえるような映画が多かったので、見るっていうことを強いる映画を作りたいなと思って、それで音をいじったんですけど。
金子:喫茶店やバーのシーンで店内のBGMの音量の方が台詞より大きいですよね。
矢崎:そうそう。
金子:もう本当に、そこにいる感じですよね。喫茶店とかに入ると、隣席の会話がぽつぽつ聞こえるけど、全ては聞き取れず、想像で補完したりするんですけど。そんな感覚になるっていうか。
矢崎:撮影中カメラの隣に僕がいて、今の会話、僕に聞こえるからNGみたいな(笑)。
ーー本当ですか!?すごい演出ですね。
金子:演じてる2人の間で成立していればいいんですね。
矢崎:そう。僕に聞こえる必要はないっていう。
ーーすごいですね。なかなか出来ないですよね。
金子:せりふ間違えてても、
矢崎:分かんない(笑)。
金子:分かんないですよね。それでも別によかった?
矢崎:当時は、自分の見た風景に俳優を埋める作業をしていて、その風景から飛び出す所が撮れたらいいなというのがあったんです。だから割と、セリフはそんなに気にせずに撮影してたと思います。