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ドキュメンタリー作家としての知識や経験をフィクションで使えることに興奮しました『プライベート・ウォー』マシュー・ハイネマン監督【Director’s Interview Vol.40】

ドキュメンタリー作家としての知識や経験をフィクションで使えることに興奮しました『プライベート・ウォー』マシュー・ハイネマン監督【Director’s Interview Vol.40】

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メキシコの麻薬カルテルに対抗する自警団に密着し、第88回アカデミー長編ドキュメンタリー賞にノミネートした『カルテル・ランド』(15)やシリア内戦下でイスラム国に制圧された街で秘密裡に結成された市民ジャーナリス集団に迫った『ラッカは静かに虐殺されている』(17)など、危険を顧みず現代の戦争の最前線に潜入したドキュメンタリーを撮影してきたマシュー・ハイネマンが初めて手がけた劇映画が、隻眼の戦場ジャーナリスト、メリー・コルヴィンの伝記映画『プライベート・ウォー』である。


これまでハイネマンは自作のドキュメンタリーにおいて、取材対象者たちのコミュニティ内に積極的に関わり、インタビューを遂行するなど、人工的な装飾を排したリアリズムを特徴とする、シネマ・ヴェリテの手法で作り続けてきた。そのなかで、負の連鎖を止めるために「状況を変えようとする人々」に彼は一貫して目を向けてきたと言えるだろう。本作でもまた、自己責任を強いる政府の時代にコルヴィンが他人のために情熱を捧げ、弱肉強食的な世界で切り捨てられてしまう人々の声──「個々人の物語」──に耳を傾け、それを世界に伝えたいと望む姿を映し出している。


ドキュメンタリーから初めてフィクションに挑んだマシュー・ハイネマン監督にお話を伺った。


Index


PTSDやアルコール依存症の感覚を反映させたサイコロジカル・スリラー



Q:本作のメリー・コルヴィンのようなワイルドで複雑な女性像というのは、プロデューサーを務めるシャーリーズ・セロンが、そのキャリアを通じて一貫して擁護、探求してきたものだとも言えるかと思います。彼女とは女性像について何か話し合われましたか。


マシュー:企画開発の当初からシャーリーズ・セロンは関わり、制作時もそのまま残ってくれました。でも、実はそれほどたくさんディスカッションをしたわけではありませんし、彼女のこれまで行ってきた仕事と本作がどんな風に関わりがあるかは、私にはあまりわかりません。




Q:近年、多くの伝記映画が作られていますが、本作は「事実に基づく物語」として英雄を崇拝するような形ではなく、むしろクライマックスの舞台であるシリアのホムスでの出来事に至るまでをカウントダウン形式で描いていくサイコロジカル・スリラーのような構成で作られています。なぜこのような構成にしたのでしょうか。


マシュー:確かにサイコロジカル・スリラーを作りたいと考えていました。世界で最も危険な場所に、自分の命のリスクを賭けてまで取材に行く人々を駆り立てるものは何なのかを、掘り下げたいと思ったのです。心理的、精神的、そして個人的に戦地での取材がメリーにどのような影響があったのかを描きたかった。


彼女の人生には、紛争地と自分の普段生活している場所、ふたつの世界があります。でも彼女の中ではある意味、紛争地の方が色々なリスクや線引きがはっきりしている場所だったのではないかと思います。素晴らしい友人に恵まれた日常生活があったとしても、そこに戻ってきたときから紛争地で経験した様々なことが逆に彼女の心を乱してしまう。だから、このふたつの世界を両方並列して見せることが重要だと考えたのです。




Q:映画の前半で、コルヴィンが戦地で左目を負傷すると、たちまち病院内で担架で運ばれる瞬間に飛んだり、あるいは2001年英国プレス賞で優秀外国人記者賞を受賞した彼女がロンドンのマンションに帰宅してドアを開けると戦争地帯に飛んだりと、突如として別の空間時間へとジャンプする編集が印象的でした。日常生活と戦場を重ね合わせ、トラウマ的な記憶と現実を区別できない彼女の混乱をフィクションならではのやり方で表しているように思いました。


マシュー:ドキュメンタリーでも同じような表現をするやり方はあるのかもしれない。ただ、やはり私はドキュメンタリーを作る場合でも、現在進行形のものにしか興味がありません。歴史的なものなどにはあまり興味がないんです。回顧的なものではなく、ヴェリテの手法で目の前で起きている人生を描いていきたい。でもメリーはすでに亡くなってしまっているから、今回はフィクションとしてアプローチしました。


自分のドキュメンタリー作家としての知識や経験、スタイル的なテクニックをフィクションという形で使えることがとても楽しかったし、興奮しました。



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