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『マイ・ブルーベリー・ナイツ』色彩、詩情、空気……ウォン・カーウァイの美意識が「世界化」した瞬間

(C)Block 2 Pictures 2006

『マイ・ブルーベリー・ナイツ』色彩、詩情、空気……ウォン・カーウァイの美意識が「世界化」した瞬間

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クリストファー・ドイルの不在を感じさせない映像美



 『マイ・ブルーベリー・ナイツ』はカーウァイ監督の“味”が随所に感じられる映画ではあるが、キャストはもちろん、スタッフの顔ぶれも従来とは大きく異なる。大きいところでいうと、撮影監督クリストファー・ドイルの不在だ。


 カーウァイ監督とドイルは、『欲望の翼』(90)から『2046』(04)まで、長らく組んできた黄金コンビ。しかし『マイ・ブルーベリー・ナイツ』では、撮影監督をダリウス・コンジが務めている。デヴィッド・フィンチャー監督作『セブン』(95)、ロマン・ポランスキー監督作『ナインスゲート』(99)、ダニー・ボイル監督作『ザ・ビーチ』(99)などを担当してきたベテランだ。本作を挟んだのち、『ミッドナイト・イン・パリ』(11)などのウッディ・アレン監督作、ミヒャエル・ハネケ監督作『愛、アムール』(12)、ポン・ジュノ監督作『オクジャ/okja』(17)と実に順調なキャリアを歩み続けている。


 ドイル以外と撮るのはカーウァイ監督にとって大きな挑戦だったと推察されるが、実際に完成された映画を観てみると、色彩や雰囲気、カット割りにシーンごとの尺など、従来のカーウァイらしさが驚くほど忠実に表現されている。撮影場所を探すロケハンツアーは本作では計3回にわたって行われたというが、カーウァイ監督のブレない美意識もさることながら、撮影チームの献身的な尽力に敬服するばかりだ。



『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(C)Block 2 Pictures 2006


 本作の物語はオーソドックスなつくりではなく、「ロードムービー」と「ラブストーリー」の2つの要素によって構成されている。さらに、ヒロインと相手役の距離は物理的に離れていて、文通状態。2ショットの数が少ないにもかかわらず、お互いの、恋に近い好意が途切れることなく続いているように見せなければならない。相当難易度の高いミッションといえるだろう。


 「クセ」がはっきりした監督の世界観を踏襲しつつ、ニューヨーク、メンフィス、ラスベガスを舞台に撮影して「アメリカという国、それぞれの“街”をしっかりと描く」というカーウァイ監督の裏テーマもしっかりとカバーし、土煙が舞うロードムービーの雰囲気も醸し、メランコリックな甘いラブストーリーの魅力も伝え……。各スタッフのTo Doリストを挙げていくだけで頭が破裂しそうになってしまうが、全ての要素がとっちらかることなく、自然に見えるように配置されている。美術・編集をカーウァイ監督の盟友ウィリアム・チャンが引き続き務めたことも大きかっただろうが、それでもスタッフ陣の功労は計り知れない。


 ちなみに、カーウァイ監督は予定とは違う選択を取ることもしばしばだったそうで、ラスベガスのバーのシーンでは撮影日になって場所を移したとか。また、出演者のレイチェル・ワイズが妊娠したことから「順撮り」が叶わず、スケジュールに変更も生じた。撮影期間は8週間と、従来のカーウァイ監督の作品よりもタイトだったという。



『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(C)Block 2 Pictures 2006


 さらに、本作のメインの舞台でもあるニューヨークのカフェでの撮影では、3日間にわたって約150回、異なる速度で、さまざまな角度から再撮影が行われたそうだ。カメラの揺れや、寄り/引きの速度、ムードに合わせたスピード感を重視するカーウァイ監督の現場ならではのエピソードといえよう。出演者のジュード・ロウは、「“一瞬”にここまで重点を置いている人と仕事をしたのは初めてだ」とカーウァイ監督の現場を振り返っている。



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