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『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』ブラッド・ピットとフィンチャーがおくる、人生の夢と儚さ

The Curious Case of Benjamin Button © 2008 Warner Bros. Entertainment Inc. and Paramount Pictures Corporation. Package Design & Supplementary Material Compilation © 2009 Warner Bros. Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All rights reserved.

『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』ブラッド・ピットとフィンチャーがおくる、人生の夢と儚さ

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フィッツジェラルドの埋もれた短編小説の映画化



 映画の原作となっているのは、アメリカが誇る文学者のひとりで、『華麗なるギャッツビー』で知られるスコット・フィッツジェラルドが、1922年に発表した短編小説である(日本版は角川文庫として刊行)。原作は映画版とは少し違う展開になっている。映画はニューオリンズが舞台だが、小説はボルチモアが舞台だ。


 主人公のベンジャミンは富豪の家庭に生まれる。そして、父親が産院に行って、最初に目にしたのは老人の顔と体を持つベンジャミンだった。赤ん坊のはずが、すでに老人の体を持っていて、病院で父を待っている。そこに現れた父は薄気味悪い息子を見て、衝撃を受ける。そんな主人公が、年を重ねるたびに若くなっていく過程を描いたのがこの小説である。



『ベンジャミン・バトン~数奇な運命』The Curious Case of Benjamin Button ©  2008 Warner Bros. Entertainment Inc. and Paramount Pictures Corporation. Package Design & Supplementary Material Compilation ©  2009 Warner Bros. Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All rights reserved.


 この設定だけは小説も映画も同じだが、映画では母親はお産で他界し、父親は息子の姿に衝撃を受けて、彼を老人ホームの前に置き去りにする。そして、このホームを支える黒人女性のクイニーがベンジャミンを育てるという設定に変えられている。原作では母は健在なままで、バトン家で育つ。そして、中年になった時、年上好みの若い女性と結婚し、息子が生まれる。最初は美しかった妻はだんだん年をとり、ベンジャミンは愛情を感じなくなる。息子は成長するが、ベンジャミンは青年から少年へと変わり、息子よりも若い容姿となる。


 小説の方が映画以上に辛辣なユーモアがあり、残酷な内容になっている。フィッツジェラルドの入魂の1作というわけではなく、さくっと書かれた軽い短編だ。エリック・ロス(『フォレスト・ガンプ』(94)、『アリー/スター誕生』(18))の脚本の方はもっと深い悲しみや優しさが感じられる内容になっている。


 映画版のベンジャミンは1918年に生まれ、30年に運命の人、デイジーと出会う。36年には家を出て船乗りとなり、41年からは戦争にも参加。45年にはボタン会社のオーナーだった父が亡くなり、ベンジャミンは財産をひきつぐ。そして、美しく成長したバレリーナのデイジーとも再会。ふたりの恋が本格的に始まるのは60年代で、娘も生まれるが、やがてベンジャミンは旅に出てしまう……(小説にはデイジーは登場しない)。



『ベンジャミン・バトン~数奇な運命』The Curious Case of Benjamin Button ©  2008 Warner Bros. Entertainment Inc. and Paramount Pictures Corporation. Package Design & Supplementary Material Compilation ©  2009 Warner Bros. Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All rights reserved.


 映画化がハリウッドで実現するまで多くの俳優や監督たちがかかわってきた。初めて企画されたのは80年代の中期で、その時はフランク・オズ監督、マーティン・ショートが主演予定だった。91年になるとスティーヴン・スピルバーグとトム・クルーズのコンビで映画化が検討され、キャスリーン・ケネディとフランク・マーシャルが製作者となる(フィンチャー版も彼らが製作)。98年にはロン・ハワード監督、ジョン・トラボルタ主演、ロビン・スウィコード脚本で企画されたが、実現せず、00年代に入るとスパイク・ジョーンズ監督、チャーリー・カウフマン脚本で進められた。03年になると、ゲイリー・ロス監督、エリック・ロス脚本へと移った。


 そして、04年に遂にフィンチャー監督の登場。ロスの脚本を引き継ぎ(原案はロスとスウィコード)、フィンチャーとの名コンビで知られるブラッド・ピット主演で進められることになり、08年に公開にこぎつけた。企画スタートから約20年の歳月が流れていた。



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