2019.10.21
感動のラストの後、エンドロールでまさかの脱力
そしてこの『ビッグ・ウェンズデー』には、ちょっとした「黒歴史」もある。それは、日本公開時の主題歌だ。
現在も、洋画の日本語吹替版などで、エンドクレジットに日本人アーティストよる独自の曲が流れることがある。「イメージソング」として宣伝に一役買うこともあって、時に賛否両論が起こりながらも、一部で定着したスタイルだ。しかし、吹替版の公開すらなかった1979年当時、『ビッグ・ウェンズデー』のエンドクレジットで日本語の曲が流れたのである。
それは川崎龍介という歌手の「こころに海を」という曲。歌詞に「オー、ビッグ・ウェンズデー」と入っていることから、明らかにこの映画のために作られたのだとわかる。川崎龍介は当時、ほとんど無名(「第2の加山雄三」として売り出そうとしたらしい)。『ビッグ・ウェンズデー』の怒涛のクライマックスが終わり、しみじみと感動が漂う瞬間に、いきなり日本語の曲が流れ出す。この異常な状況に、観客はざわついた。はっきり言って「興ざめ」である。ネットも存在しない時代なので、その話題が広がるのには時間がかかったが、今で言う「炎上」案件。映画ファンの間では、長らく語り継がれることとなった。
『ビッグ・ウェンズデー』と同じ時期に、『ナイル殺人事件』(78)の「ミステリー・ナイル」、『リトル・ロマンス』(79)の「サンセット・キッス」など、日本公開時の「イメージソング」がちょっとした流行になっていた。CMなどで流れたこれらの曲は歌詞も英語で、いかにも作品の主題歌と思われ、音楽チャートでも上位に入ったりしていた。しかし映画の本編で使われることはなく、逆に「なぜ流れない?」と思った観客が多かったのも事実。
『ビッグ・ウェンズデー』は、配給会社の暴走が引き起こした珍事でもある。ジョン・ミリアス監督が了承したのかどうか、今となっては定かではない。もちろんビデオなどのソフト化で、「こころに海を」は使われておらず、むしろ『ビッグ・ウェンズデー』のファンには、時をおいて「懐かしい思い出の曲」となった。曲自体は、妙に忘れがたい優しいメロディなのだ。YouTubeで発見することもできる。
こうした炎上の黒歴史も忘れ去られつつあり、ジャン=マイケル・ヴィンセントもこの世を去ったが、今もなおサーフィン映画、青春友情映画としての輝きを失わない『ビッグ・ウェンズデー』。巨大な波に向かって、ボードを手に砂浜を歩く3人の雄姿とその表情は、映画史に残るカッコよさだと断言したい。
文: 斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。スターチャンネルの番組「GO!シアター」では最新公開作品を紹介。
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