(c)Mars Media Entertainment, Amedia, Russia One, Trite Studio 2018
『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』精緻なバランス感覚で戦車映画にあらゆるエンタメ要素を盛り込んだ傑作
2019.11.04
車体をかすっただけでも兵士が気絶する戦車砲の凄まじさを表現
本作に登場するソ連製戦車T-34は全て自走する本物を使用、役者たちが実際に操縦したシーンもあり、監督は時代考証は100%完璧だと自負する。事実『フューリー』で軍事的検証を担当したスタッフも太鼓判を押したレベルだという。そんな本物志向の中でも出色の演出が戦車砲の表現だろう。
戦車同士が主砲で撃ちあう時、砲弾が命中しても簡単に相手を撃破することはできない。戦車の装甲は厚いため、簡単には貫通できないし、第二次大戦時の戦車には、様々な設計的な工夫が既にほどこされていたからだ。この事実を『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』では戦闘シーンの演出に巧みに生かしている。
『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(c)Mars Media Entertainment, Amedia, Russia One, Trite Studio 2018
T-34をはじめ、多くの戦車には「傾斜装甲」という技術が取り入れられていた。これは戦車の外壁(装甲)の角度を斜めにすることで、砲弾がドンピシャな角度で命中しないかぎり、弾いてしまうというもの。しかし、例え砲弾を弾いても、その衝撃は凄まじく、戦車内の兵士は脳震盪で失神することもあったという。
本作には、この砲弾を弾くシーンが頻出し、その度に戦車内で苦しむ兵士の姿も描かれる。ここまでリアルな表現をした戦車映画の先例はないと言われている。飛翔する砲弾をCGによるスーパースローで表現するマンガ的なカットも度々挟み込まれるが、戦車砲の威力とその効果を観客に分からせるため、大きな効果を生んでいる。
かように『T-34』は劇的なストーリー展開と演出、そこに戦闘とメカニカルな表現のリアルさを融合させることで、戦争の悲惨さを重厚に描きながらも、高度なアクションエンターテインメントとしての完成度も兼ね備えることに成功した。
『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(c)Mars Media Entertainment, Amedia, Russia One, Trite Studio 2018
そして筆者が個人的に最も感心したのは、上記のような要素を青春映画のような瑞々しさでまとめ上げた監督のセンスだろう。主人公たちの脱走の動機を担保するのは「戦争の勝利」や「祖国のため」という戦争映画で前景しやすいキナ臭い概念では決してない。監督は劇中で明らかにこう宣言している。彼等はただ「自由」を希求する、自らの心に従い、戦車を疾駆させたのだと。
個人的にはT-34戦車が、ドイツの森や草原を突き抜けていく姿は、アメリカンニューシネマの傑作『バニシング・ポイント』(71)でパトカーを振り切ってハイウェイを疾走するダッジ・チャレンジャーとダブってみえた。
『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(c)Mars Media Entertainment, Amedia, Russia One, Trite Studio 2018
鑑賞後に気持ちがどんよりしがちなリアル路線の戦争映画で、うしろめたさのない形で爽快感を付与できたのは、監督の狙い通りなのだろう。
戦車映画という衣をまとっていながら、『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』には、ラブロマンス、西部劇、青春群像劇…などなど、あらゆるエンタメ映画の遺伝子が躍動している。これらの要素を抜群のバランス感覚でまとめているからこそ、見る人それぞれが、自分の好みの映画の要素を必ず発見できるに稀有な作品に仕上がっているのだ。
取材・文: 稲垣哲也
TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)。
『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』
2019年10月25日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:ツイン
(c)Mars Media Entertainment, Amedia, Russia One, Trite Studio 2018
追加エピソードが描かれたダイナミック完全版IMAX上映決定!
T・ジョイプリンス品川、109シネマズ木場、横浜ブルク13、109シネマズ箕面、広島バルト11、鹿児島ミッテ10の計6館にて
2019年11/15(金)より1週間限定上映!
※2019年11月記事掲載時の情報です。