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『ムーンライト』「A24」に「プランB」インディペンデント系製作会社が守り抜く、挑戦的なオリジナル企画と作家性

(C)2016 A24 Distribution, LLC

『ムーンライト』「A24」に「プランB」インディペンデント系製作会社が守り抜く、挑戦的なオリジナル企画と作家性

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優れた製作会社を味方につけて



 そもそも、地味な長編一本しか撮っていない、若い黒人監督の挑発的なオリジナル脚本がどうやって成立し、アカデミー賞まで獲ることができたのか。そのカギは、「オリジナル企画で牽引するインディペンデントな製作会社の台頭」にある。本作は、「A24」と「PLAN B」という、いま最も勢いのある二社がバックアップしており、『Medicine for Melancholy』に注目していたPLAN Bのプロデューサーに脚本が渡り、プロジェクトが動き出したという。PLAN Bが資金を調達し、A24が資金面の管理と世界配給を担当した。


 A24は2012年にニューヨークに本拠地を構えて設立され、『ブリングリング(ソフィア・コッポラ監督)』(13)、『スプリング・ブレイカーズ(ハーモニー・コリン監督)』(13)、『スイス・アーミー・マン(ダニエルズ監督)』(16)、『追憶の森(ガス・ヴァン・サント監督)」(15)他、個性的な監督作品の制作配給を数多く手がけ、『ルーム』(15)ではブリー・ラーソンにアカデミー主演女優賞をもたらし、『エクス・マキナ(アレックス・ガーランド監督)』(15)ではアカデミー視覚効果賞を受賞するなど、破竹の勢いで業界を席巻する。



『ムーンライト』(C)2016 A24 Distribution, LLC


 一方、「PLAN B」は、2002年にブラッド・ピットが、当時結婚していたジェニファー・アニストンらとともに立ち上げた会社で、現在はブラッド・ピットのみが経営者として残っている。『ディパーテッド(マーティン・スコセッシ監督)』(06) 、『ツリー・オブ・ライフ(テレンス・マリック監督)』(11)、『オクジャ(ポン・ジュノ監督)』、『ビールストリートの恋人たち(バリー・ジェンキンス監督)』(18)など、優れた作品を幅広く生み出し続けている。ハリウッドで上りつめたブラッド・ピットは、やりたいことが実現できる立場を、資金が集まりにくい個性的な映画作りに生かしているのである。


 現在、ハリウッドの映画制作は大きく二つに分かれている。一つは、マーケティングに基づいてマーベルのような原作ありきで制作費を数百億円調達し、世界中でヒットすることが条件の映画制作。もう一つは、オリジナル企画で、映画祭を中心に商圏を築いていく映画制作である。後者のスタンスで圧倒的にリードするA24とプランBが、プロデューサーのアデル・ロマンスキーと共に、監督のビジョンを守り抜き、唯一無二の映画を生み出したのが『ムーンライト』なのである。



『ムーンライト』(C)2016 A24 Distribution, LLC


 最後にもう一社紹介したい。イーベイで巨万の富を得たジェフリー・スコールが作ったL.A.の製作会社「パーティシパント・メディア」だ。ジョージ・クルーニー、ソダーバーグ、スピルバーグらと組み、社会性と商業性を両立させた良作を数多く生み出している。


 この会社のポリシーは「行動する映画づくり」である。観た人が、いてもたってもいられなくなり、ポジティブなアクションを何か一つ起こしたくなる映画。文字通り「participant(参加者)」メディアである。ハリウッドで日常的に行われている買収劇とは距離を置き、アウトサイダーだからこそ、社会的意義のある作品を作り続けることができるのだ。




文:江口航治

映像プロデューサー。広告を主軸に、メディアにこだわらず幅広く活動中。カンヌはじめ国内外広告賞多数受賞し、深田晃司監督『海を駆ける』(18)やSXSWへのVR出展など、様々な制作経験を経たプロデューサーならではの視点で寄稿。「note」ででも投稿中。


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作品情報を見る





『ムーンライト』

Blu-ray発売中 ¥5,800+税

発売元:カルチュア・パブリッシャーズ

販売元:TCエンタテインメント

その他:提供:ファントム・フィルム、カルチュア・パブリッシャーズ、朝日新聞社

(C)2016 A24 Distribution, LLC

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