半年間で徹底した役作りを行った脇役たち
準備期間は半年。となると起用すべき俳優もじっくりと時間をかけて厳選することができる。オーディションでは実践的な能力が試され、その結果、これまで映画出演歴のない実力派が多数発掘された。例えばのちに『バットマン・リターンズ』(92)のペンギン役で名を馳せるダニー・デヴィートもこれが初出演。また10年後に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)のドク役で一世を風靡するクリストファー・ロイドも、おなじみの瞳をギョロつかせながら忘れがたい存在感を残している。
彼らは各々の役が抱えた病状に合わせ、実際の入院患者に付いて生活し、しっかりと研究するように命じられた。そこで重要なのは、あくまで「生身の人間」としての彼らを受け止めて、その生き様を吸収するということ。なるほど、ミロス・フォアマン流のコメディは、決して登場人物を揶揄したり、笑い者にするといったことがない。それはこのような姿勢からくるものだったのだ。
『カッコーの巣の上で』(c)Getty Images
さらに俳優陣は院内での生活を通じて、次第に演技のオン/オフなど関係なく、24時間ずっとその役柄であり続ける状態が当たり前となっていった。そうやっていよいよジャック・ニコルソンが現場入りを果たした際、いくら共演俳優に気さくに声をかけても誰一人として一向に役から抜け出さないものだから、ニコルソンは「一体あいつら何なんだ!?」とたまらずその場から逃げ出してしまったそうだ。