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『マン・オン・ザ・ムーン』ジム・キャリーの名演技は如何にして生まれたのか。製作から18年を経て明かされた驚くべき役作りの深淵
2019.10.31
『マン・オン・ザ・ムーン』あらすじ
笑わせることが好きなアンディ・カフマンは一風変わったコメディアン。売れないコメディアンとしてライブハウスを転々としていた。しかし、そんなある日カフマンにチャンスが訪れる。大物プロデューサーの目に留まり人気番組への出演が決まりスーパースターになるのだった。やがて、人気者となったカフマンは、その成功とは裏腹に自虐的になってゆく。
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公開から18年後に突如公開された舞台裏ドキュメンタリー
2017年にNetflixで配信されたドキュメンタリー映画『ジム&アンディ』をご存じだろうか。これはジム・キャリーにゴールデングローブ賞主演男優賞をもたらした『マン・オン・ザ・ムーン』(99)の舞台裏を捉えたものだ。そこで描かれたのは驚くべき強度で役にのめり込み、監督、スタッフを混乱に陥れるジム・キャリーの姿だった。
演技派の俳優は時に役に入り込みすぎ、プライベートでも役が抜け切らないという話はしばしば聞く。古くは演技開眼のため、感情面で深く役にシンクロするメソッド演技法にのめり込み、精神のバランスを崩したと言われるマリリン・モンロー。近年では『ダークナイト』(08)でジョーカーを演じたヒース・レジャーは徹底した役作りにこだわるあまり、不眠症に悩まされ、薬物の併用摂取で映画公開前に死去した。
「役に没入する」才能は、映画にリアリティを与えるため、俳優に常に求められる資質かもしれないが、一歩間違えば人生そのものを奪いかねない危険もはらんでいる。では、才能の塊のような男ジム・キャリーは『マン・オン・ザ・ムーン』で、如何にして主人公に憑依したのか。それを解き明かすのが先述の『ジム&アンディ』だ。
しかし『ジム&アンディ』は映画の舞台裏を描く単なるメイキングものではない。『マン・オン・ザ・ムーン』の後に『ジム&アンディ』を見ることで、映画への理解が深まるのは当然だが、逆に『ジム&アンディ』という作品をより理解するために本編である『マン・オン・ザ・ムーン』があるかのような感覚にも陥るのだ。2つの作品はお互いを補完しあう存在であり、2本で1本の映画として見ることも可能だ。事実、ジム・キャリーも『ジム&アンディ』の中でこう語っている。
「舞台裏の映像も映画の一部だったらいいのに。映画の中に盛り込みたいくらいだ。映画は舞台裏でこそ起きていたからね」
フィクションとは何か、他人を演じるとはどういうことなのか。そして18年の間メイキング映像が封印されてきたのは何故なのか?その答えは全て『ジム&アンディ』の中にある。