問題のラストシーンの意味とは
そんな本作のなかでも、とくに印象的なのは、後日談が描かれるラストのシークエンスである。舞台となるのは、本作が公開された当時の“現代”。自分の刑事としての能力に自信を失ったパクは、いまではセールスマンとして一家を支える存在となっている。彼は、以前刑事として活躍していた土地を通りかかると、本作のオープニングで映し出された、美しい田園地帯に立ち寄る。それは、最初に被害者の遺体が発見された事件現場でもある。
パクがかつて遺体のあった用水路を、当時と同じように覗いていると、そこに通りかかった少女が、「この間も同じように、その用水路を覗いていたおじさんがいた」ということを語りだす。そしてその男は、「むかし、自分がここでしたことを思い出していた」と、彼女に語ったのだという。間違いなく犯人である。パクがその人物の容姿を尋ねると、彼女は「普通の顔だった」と答えた。それを聞いたパクは、突然ハッと前を向き、カメラも正面からその顔を捉える。
『殺人の追憶』(c)Photofest / Getty Images
このインパクトのあるラストにはどのような意味があるのか。ここでは、劇中で言っていたように、「犯人は現場へ戻ってくる」ということを表現している場面である。犯行を行った者は、当時のことを思い出して、自分のやったことを反芻して楽しむのだ。
であれば、逮捕されておらず社会に潜んでいるはずの、現実に存在する「華城連続殺人事件」の犯人も、同じような行動をとっていた可能性がある。もっといえば、この事件を基にした本作『殺人の追憶』を、当時のことを懐かしんで楽しむために、映画館に鑑賞しにきているかもしれない。
つまり、パクの目線の先に、観客席に座っている“犯人”がいる可能性をポン・ジュノは期待しているのであろう。そう、もしその構図が実現したのだとするなら、ついにパクは犯人の姿を、しかも現実の「華城連続殺人事件」の犯人の姿を、その瞳の中に捉えたということになるのだ。
文: 小野寺系
映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。Twitter: @kmovie
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