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『インランド・エンパイア』デヴィッド・リンチが誘う奇妙な世界の先にあるのは、映画を通じた救済なのか

『インランド・エンパイア』デヴィッド・リンチが誘う奇妙な世界の先にあるのは、映画を通じた救済なのか

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過去の短編作品を用いた、奇妙な導き手の存在



 この世の中には、なにか良くない事情を孕んだ逸話、曰く付きの都市伝説が無数に存在する。中でも、映画業界では、そのような曰く付きのエピソードがいたるところに転がり落ちている。


 例えば、『スーパーマンと地底人間』(51)で主演を務めた俳優ジョージ・リーヴスの突然の死は有名だ。結婚を目前に控えたリーヴスは、ロサンゼルス市内の自宅で射殺死体となって発見されている。1959年のことだった。自殺とも、他殺ともいわれる彼の不可解な死の真相は、『ハリウッドランド』(06)という映画の中で、詳しく語られている。是非、そちらも参照してほしい。



 しかし、である。この話はそれだけでは終わらない。『スーパーマン』(78)から『スーパーマンIV/最強の敵』(87)まで、一貫してスーパーマンを演じたクリストファー・リーヴもまた、落馬による半身不随で芸能界を離れ、最終的には心不全を発症し、若くしてこの世を去っている。ファンの間では“スーパーマンの呪い”と呼ばれ、「スーパーマン」作品に関わった俳優、スタッフは、災厄に見舞われると噂されている。


 『インランド・エンパイア』における「47」という劇中映画も、そういう曰く付きの代物だった。主演俳優が死亡し、お蔵入りとなった映画を、後年、リメイクするという設定は、いかにもありえそうな話だ。曰く付きかどうかは別として、俳優のリバー・フェニックスが若くして急死した際には、撮影途中だった『ダーク・ブラッド』(12)が主役不在となり、長らくお蔵入りとなっていた(後に、20年近い歳月を経て、公開にこぎつけている)。



 こうした例は、わたしたちが知らないだけで、まだまだ無数に存在するのだろう。わたしたちの認知が及ばないハリウッド・バビロンというのは、『マルホランド・ドライブ』でも描き出されたように、極めて未知の闇に包み込まれている。まるで、今いる世界とは異なる、別世界のように、だ。


 そういう不思議の世界への案内人は、“うさぎ”が請け負っている。ルイス・キャロルの児童小説「不思議の国のアリス」では、擬人化された白うさぎの後を追って、アリスは不思議の世界へと足を踏み入れる。そして、この映画でも、わたしたちを不思議な世界へと誘うのは、擬人化されたうさぎ、3匹のうさぎなのである。


 実は、人型うさぎの奇妙なシーケンスは、リンチが手がけた短編作品『Rabbits(原題)』(02)からの借用である。シットコムの体を成す『Rabbits』は、もともとリンチが運営する会員制サイトで公開されたもの。過去の作品のリサイクル(再利用)というわけだ。


 つまり、この映画のうさぎは、「不思議の国のアリス」と同様に、奇妙な世界への導き手なのである。わたしたちはアリスのように、奇妙なうさぎの後を追って、内なる帝国、『インランド・エンパイア』へと誘われるのである。



文: Hayato Otsuki

1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「IGN Japan」「リアルサウンド映画部」など。得意分野はアクション、ファンタジー。



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(c)Photofest / Getty Images

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