2019.12.21
映画に流れる男たちの友情
『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』を語る上では、男たちの“闘い”が欠かせないが、同時に、男たちの“友情”についても語らねばならない。意気投合したかのように見えたマイケル・チミノとディノ・デ・ラウレンティスだが、音楽については衝突したと言われている。
ラウレンティスは『狼よさらば』(74)でハービー・ハンコックを、『フラッシュゴードン』(80)ではクイーンを、『デューン/砂の惑星』ではTOTOを映画音楽に起用していたように、ロックミュージシャンの起用をチミノに求めていた。しかもそれは「アジア系を」というオーダーだったのだ。それに争ったのはチミノ自身。そのような経緯の中で『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』で音楽を担当することとなったデヴィッド・マンスフィールドは、当時まだ20代の若手音楽家。彼の映画音楽デビューは、チミノの失敗作『天国の門』だったのである。
そして、主演のミッキー・ロークも『天国の門』に小さな役で出演している。当時無名に近かった彼を推薦したのは、アクターズスタジオの同期だったクリストファー・ウォーケン。マイケル・チミノがアカデミー監督賞に輝いた『ディア・ハンター』で、アカデミー助演男優賞に輝いた人物だ。
『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』(C)2007 LEGENDE - TF1 INTERNATIONAL - TF1 FILMS PRODUCTION OKKO PRODUCTION s.r.o. - SONGBIRD PICTURES LIMITED Visa d’exploitation N°111 803 Dépôt légal 2007
実はこのような俳優同士の友情エピソードは、ミッキー・ロークにも存在する。チャイナタウンの潜入捜査で盗聴をする刑事アンジェロ。彼を演じるレナード・テルモとミッキー・ロークは、無名時代のミッキーが出演していた舞台を観たことをきっかけに、長年にわたって友情を結んできた仲なのだ。お互いの仕事がない時代、どちらかがスターになった時には自身が出演する映画に相手を出演させることを約束していたという。
その約束を果たすべく、スター俳優となったミッキー・ロークは『バーフライ』(87)や『死にゆく者への祈り』(87)でレナード・テルモと共演している。そしてレナードが2012年に急逝するまで、ふたりの友情は続いたと伝えられている。そして、40本以上の映画に出演したレナードの姿をいち早く認識したのは、日本のミッキー・ロークのファンたちだった。ミッキーが1988年から出演したサントリーリザーブのCM。厳かな雰囲気の中、スーツに身を包んだミッキーにウイスキーを差し出すバーテンダー。彼こそが、レナード・テルモなのである。
【参考文献】
・「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」劇場パンフレット(松竹株式会社事業部)
・アメリカ盤「Year of the Dragon」Blu-ray オーディオコメンタリー
・「ザ・ゴッドファーザー」ハーラン・リーボ著(ソニーマガジンズ)
・BOX OFFICE MOJO 「Year of the Dragon」
文:松崎健夫
映画評論家 東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了。テレビ・映画の撮影現場を経て、映画専門の執筆業に転向。『ぷらすと』『japanぐる〜ヴ』などテレビ・ラジオ・ネット配信番組に出演中。『キネマ旬報』、『ELLE』、映画の劇場用パンフレットなどに多数寄稿。現在、キネマ旬報ベスト・テン選考委員、ELLEシネマ大賞、田辺・弁慶映画祭、京都国際映画祭クリエイターズ・ファクトリー部門の審査員を務めている。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)ほか。
『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』
発売・販売元: キングレコード
Blu-ray発売中 ¥2,500 +税
(C)2007 LEGENDE - TF1 INTERNATIONAL - TF1 FILMS PRODUCTION OKKO PRODUCTION s.r.o. - SONGBIRD PICTURES LIMITED Visa d’exploitation N°111 803 Dépôt légal 2007
(c)Photofest / Getty Images