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ポン・ジュノ監督の長編デビュー作『ほえる犬は噛まない』。その原題から浮かび上がるテーマ性とは?
特別なことが何もない「日常の世界」
韓国を揺るがす殺人事件の謎に迫った『殺人の追憶』やハリウッド顔負けのリアルな怪獣に一家が立ち向かおうとする『グエムル』(06)のスケール感に比べると、『ほえる犬は噛まない』はあらゆるものを日常サイズに収めたコンパクトさが光る。特別なことなんて何もなくとも、そこでは何やら等身大の目線でおかしなことが起こる。それこそが本作の持つ最大の強度だ。
『グエムル』予告
例えば、行方不明になった犬をめぐってサイコな事件の匂いが漂い、かと思えば誰かの役に立って有名人になりたいというヒロインの健気な奮闘があり、また大学での教員採用をめぐって正しくない道を進もうとする男の苦悶があり・・・。一言で言えば、観客を掴ませない。笑わせたかと思えば、次には哀しくさせ、ホロッと胸を打つ場面の次には団地内で息詰まるチェイスが展開したりもする。
「こんなタイプの映画は初めて」や「ジャンル分け不能」とはこの映画の感想として当時よく聞かれた言葉だが、映画とは、物語とは、かくあるべし、とするあらゆる常識の垣根をすり抜けながら、本作はそのどれにも属さない居場所を飄々と提示する。ポン・ジュノはデビュー作の時点でこんな唯一無二の作品を生み出していたのである。