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『アメリカン・ギャングスター』アンチヒーローになれなかったアメリカのギャングスターを描くクライムドラマ

(c)Photofest / Getty Images

『アメリカン・ギャングスター』アンチヒーローになれなかったアメリカのギャングスターを描くクライムドラマ

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「サタン」フランク・ルーカスの正体



 フランク・ルーカスは、確かに「アメリカン・ギャングスター」ではあるが、決して大物ではない。確かに本作で描かれたように、一時期は宮殿のような家に住めるほどのお金を稼いだが、それでも大物ギャングと呼ばれるほどではなかった。大物ギャングと言えば、本作でもフランク・ルーカスの師匠として登場するエルスワース・”バンピー”・ジョンソン(以下バンピー・ジョンソン)だ。


 『奴らに深き眠りを』(97)では、ローレンス・フィッシュバーンがバンピー・ジョンソンを演じた。最近でも、フォレスト・ウィテカー主演で『Godfather of Harlem』(19-現在/日本未放映)というテレビシリーズまで作られている程だ。あの名作『黒いジャガー』(71)の悪役バンピーは当然ながらバンピー・ジョンソンから作られたキャラクターだし、フランシス・フォード・コッポラ監督の『コットンクラブ』(84)にもバンピーのキャラクターが登場している。


 しかも、フランク・ルーカスと同じ時期のライバルだったニッキー・バーンズ(本作ではキューバ・グッディング・Jrが演じる)の方が、まだフランク・ルーカスよりも有名で大物だ。『ニュー・ジャック・シティ』(91)で主演ウェズリー・スナイプスが演じたニーノ・ブラウンのモデルはニッキー・バーンズだと言われている。


『ニュー・ジャック・シティ』予告


 では、なぜフランク・ルーカスを描いた『アメリカン・ギャングスター』は製作されたのだろうか?これは、フランク・ルーカスが語ったことを元に本作が作られたことが大きい。本作は、ニューヨーク・マガジンに掲載された『The Return of Superfly』が元になっている。ジャーナリストが出所後のフランク・ルーカス本人に話を聞いて書いた記事である。


 スティーヴン・ザイリアンも、何日にも渡ってフランク・ルーカスから話を聞いて脚本を書いている。また、本作が公開され、注目を集めたことで、史実通りなのか調べた元捜査官やジャーナリストたちがいる。彼らによると、どうも異なる点はあるらしい。筆者は、元となった『The Return of Superfly』を読んだことがあるが、確かにそれを読むと、フランク・ルーカスが語る物語の信憑性は危ういことが分かる。


 本章の冒頭で、フランク・ルーカスを大物ではないと書いたのには訳がある。劇中でも描かれているように、フランク・ルーカスは目立つことを嫌った。なるべく自分の存在を消し小物であるように振る舞うことで、刑事たちに目を付けられないようにするためだ。しかし、『The Return of Superfly』を読むとその印象はガラリと変わる。恐らくインタビューの時にはもう逮捕される可能性がないというのもあるだろう。フランク・ルーカスはまるで若いラッパーのように自分の高価な所有物を自慢していた。



『アメリカン・ギャングスター』(C) 2007 Universal Studios. All Rights Reserved.


 そして劇中でも描かれていたのが、フランク・ルーカスの残虐さだ。劇中でも描かれた、イドリス・エルバ演じるタンゴの結末は酷いもので目を逸らしたくなる(白昼堂々、フランク・ルーカスに頭を撃ち抜かれる)。しかし、『The Return of Superfly』で読んだ時の方がもっと衝撃を受けた。フランク・ルーカスは、「あの馬鹿……」と笑いながらタンゴを思い出し語っているのだ。


 取材時の録音テープを聞きながら記事を書いていたジャーナリストは、側にいた彼の妻に「あなたはサタンの話でも書いているの?」と言われたという。フランク・ルーカスに良心の呵責というものは存在していない。



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