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『アトミック・ブロンド』シャーリーズ・セロンが邁進する妥協なきフューリー・ロード

(c) 2017 COLDEST CITY, LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

『アトミック・ブロンド』シャーリーズ・セロンが邁進する妥協なきフューリー・ロード

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クライマックスで魅せる驚異的なワンカット



 これらのスタッフたちとセロンとの天井知らずの奮闘によって、アクションの密度と精度はぐんぐんと高まっていった。その光景を目の当たりにしながらデヴィッド・リーチ監督は「このとっておきの“無謀なアイディア”も彼女なら行けるのではないか」と考えるようになる。それが本作のハイライトともいうべきクライマックスの超絶アクションだ。


 廃墟ビルの全体を使って織り成されるこの息の長いシークエンスは、室内から階段へと移動して格闘を繰り広げ、その様子を手持ちカメラが肉薄するように追いかける。手元のプレス資料によると長回し部分は7分半に及ぶそうで、誰かが一つでも動作を間違えればまた最初からやり直しという緊張感あふれる状態のもと、現場には「今度のテイクで絶対決めるぞ!」という監督の檄が飛んでいたという。


 映画史にはこのような「長回し」、あるいは「長回しに見える」撮影を盛り込んだ名作が盛りだくさんだ。古いところで言えば、ヒッチコックの『ロープ』、アルトマンやデ・パルマ作品。それに今や映画作家たちの語り草となった『トゥモロー・ワールド』、ジョニー・トーの『ブレイキング・ニュース』、さらには最初から最後まで全てがワンカットに見えるように作られた『バードマン』。最近だと『007 スペクター』や『ベイビー・ドライバー』のオープニングでも印象的に取り入れられていたのを思い出す。


 ただし、この『アトミック・ブロンド』が驚異的なのは、カメラが回っている間、単に背後の景色が絵巻物的に過ぎ行くのではないというところだ。ヒロイン自らが台風の目となり、次から次に襲い来る敵を相手に絶え間無く格闘を繰り広げる。その状態がこれだけ息長く続くケースは他では滅多にお目にかかれない。



『アトミック・ブロンド』(c) 2017 COLDEST CITY, LLC.ALL RIGHTS RESERVED.


 しかも彼女はスーパーヒーローではない。等身大の人間だ。戦うたびに傷つき、ボロボロになりながらなお立ち上がり、相手に立ち向かって拳を振り上げ、突破口を開き、なんとかこの場を脱出しようとする。その演技と身体性を兼ね備えた描写の数々には、もはや言葉にならないほどの興奮と、とめどないリスペクトの念がこみ上げてやまない。これぞまさにアクション・チームとシャーリーズ・セロンによる過酷な修練の集大成。その一瞬一瞬に、身体的な創造性が極限にまで達しゆく様が刻印されている。かくしてセロンは、自らのキャリアを賭けたフューリー・ロードでの闘いに、またしても打ち勝ったのである。


 おそらくアクション映画というジャンルにおいて、本作はある意味、踏み台でしかないのだろう。この先、デヴィッド・リーチ率いる87 elevenの面々も、そしてシャーリーズ・セロンもまた、自らの限界をさらに高く超えていくはず。でも今だけは『アトミック・ブロンド』の革新的なアクションの数々を、それに携わった人たちの奮闘を、スクリーン越しに大いに讃えたい。本作はそうするに価する珠玉の映像体験だ。



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。 



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公式サイト : http://atomic-blonde.jp/

配給:KADOKAWA

(c) 2017 COLDEST CITY, LLC.ALL RIGHTS RESERVED.


※2017年10月記事掲載時の情報です。

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