シャーリーズ・セロンが邁進する妥協なきフューリー・ロード『アトミック・ブロンド』

シャーリーズ・セロンが邁進する妥協なきフューリー・ロード『アトミック・ブロンド』

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自らの限界を超えてゆくシャーリーズ・セロン



 彼女の人生は闘いの連続だ。実人生も、そして演じる役柄でも、シャーリーズ・セロンは常に闘ってきた。『モンスター』(03)ではその美貌をかなぐり捨てて人間のおぞましさや心の叫びを体現し、『イーオン・フラックス』(05)では斬新なSF世界で抜群の身のこなしを披露。そして運命の『マッドマックス/怒りのデス・ロード』(15)にて、彼女はスキンヘッド、ノーメーク、義手を装着した扮装で“フュリオサ”を熱演。歴史にその名を刻む史上最強のヒロイン像を誕生させた。だが、キャリア最高の賞賛を手にしてもなお、俳優としてのフューリー・ロードはまだまだ続く。彼女はいかにして、女優としての絶頂期をさらに超えていこうとしているのか?


 その答えを観客の目前に勢いよく叩きつける作品こそ『アトミック・ブロンド』だ。セロンは本作で主演のみならずプロデューサー業も兼務。原作の映画化権を獲得するのはもちろん、極限アクションを具現化できる最高のスタッフを自らの手で揃えてみせた。中でも彼女の覚悟のほどが十二分に伝わって来るのが、監督を務めるデヴィッド・リーチの起用である。




 アクション・スタントの世界で彼の名を知らない者はいない。リーチは数々の伝説的作品を裏方で支え、アクション構築のプロとして業界に革命を巻き起こしてきた人物なのだ。その業績は『マトリックス』(99)シリーズなどでも知られるが、いや、それにも増して大きな驚きをもたらした記念碑的作品として『ジョン・ウィック』(14)を挙げるべきだろう。本作で彼は盟友チャド・スタエルスキーと共同監督を務め、その作品世界に自らの持てるもの全てを思い切りぶちかまして見せた。それができたのも『マトリックス』で苦楽を共にし、アクションの限界に挑んだキアヌ・リーヴスが主演のオファーを快諾してくれたからこそ。そして実はこのキアヌの存在は、今回の『アトミック・ブロンド』にも大きく関与しているのだが、それは後述することにする。


専門工房で生み出される最先端アクションとは?



 まず、我々が知るべきなのは、現代アクションが生み出される最前線の光景だ。例えば近年、映像の特殊効果に関しては専門のVFX工房がその仕事を専門に請け負うケースがほとんどだが、実はアクションも同じように、制作側が専門会社に一連のアクション構築を丸々依頼することが増えている。中でもデヴィッド・リーチやチャド・スタエルスキーといった異才たちは、業界内でいち早く「87 eleven」というアクション工房を立ち上げたことでも知られ、彼らはここで日夜、格闘技、ワイヤー、銃器、車輌なども絡めながら、身体表現の限界を打ち破る方法論をストイックに探求し続けているのだ。


 彼らは制作サイドの要望に合わせて、作品の内容、予算、安全性、または使用する機器や道具の特性などもしっかりと見極めて、その中で決して同じことの繰り返しにならない、唯一無二のアクションをオーダーメイドで作り出す。とりわけ、ハリウッド俳優などがアクションに挑む時には、その人の身体的な限界はどこなのかを見極め、各人の能力に合った表現性を引き出していくことが欠かせない。その全ての創造過程を手掛けることが彼らに与えられた使命なのである。




 セロンの場合、『マッドマックス』を終えて2ヶ月も経たない内に新たなトレーニングが「87 eleven」にて開始された。1日5時間。期間は3ヶ月。彼女の身体能力の高さについては、スタッフ側も事前に、ある程度は把握していたはず。しかしまさか、これほど突き抜けているとは思わなかっただろう。元々、女優デビューの前にはバレエダンサーとして厳しい練習に耐え抜いてきたセロンは、身体の柔らかさ、俊敏さ、メンタルの強靭さに人一倍秀でている。 “コレオグラフィー”を身体に叩き込むのもお手の物だ。こうして率先して限界を越えていくセロンに触発され、スタッフ側も奮起。より複雑なアクションを考案し、彼女の身体性を余すとこなくスクリーンに焼き付けようとする作業が続いていった。


スパーリング相手も務めた戦友キアヌの存在



 アクション・コレオグラフィーは細かなワザの積み重ねだ。体得するにはその構成要素をひとつひとつマスターし、最終的にそれらを統合して、ひとつの淀みない流れに仕上げなければならない。それを何度も繰り返して、頭ではなく体に覚えさせて精度を上げていく。そこまでたどり着くには、スタッフから突きつけられる無理難題にも応えねばならないし、何よりも“自分の中の壁”を幾つも超えることが不可欠だ。しかしこの過酷な状況はセロンの闘志にますます火をつけた。そして、彼女の「誰にも負けたくない!」とする負けん気の強さを後押しすることになったのが、他ならぬキアヌ・リーヴスの存在である。


 実はちょうど同じ時期、彼女と20年以上の友人関係にあるキアヌも『ジョン・ウィック』の続編製作(続編はスタエルスキーの単独監督作)のために同じスタジオでトレーニングを始めていたのだ。二人は日々、顔を合わせながら、時に励まし合い、時にライバルのように互いを意識しながら各々の課題をこなしていった。また、練習の過程では二人がスパーリングを行うことも少なくなかった。


 言うまでもなく、アクションの分野でキアヌは先輩にあたる。彼と87 elevenのスタッフたちは前作からの流れですでに気心が知れているし、さらにはリーチやスタエルスキーとは『マトリックス』時代からの付き合いだ。そんな最高のチームがぴったりと呼吸を重ねながら『ジョン・ウィック2』の高難度のアクション振り付けに突入していく姿を横目で見ながら、セロンが心の中で「ぜったい、負けない!」と叫んでいた姿は想像するにあまりある。




 『アトミック・ブロンド』と『ジョン・ウィック2』。この制作期間の重なる二つの革新的アクション映画は、こうやって二人のハリウッド俳優の間に「ライバル/戦友」という絶妙な関係性を育ませていった。もしやこの刺激し合う構図をリーチやスタエルスキーたちがあえて意図的に作り出していたのだとすれば、これは心理面すら見越した彼らならではの見事な「計略」というほかない。


クライマックスで魅せる驚異的なワンカット



 これらのスタッフたちとセロンとの天井知らずの奮闘によって、アクションの密度と精度はぐんぐんと高まっていった。その光景を目の当たりにしながらデヴィッド・リーチ監督は「このとっておきの“無謀なアイディア”も彼女なら行けるのではないか」と考えるようになる。それが本作のハイライトともいうべきクライマックスの超絶アクションだ。


 廃墟ビルの全体を使って織り成されるこの息の長いシークエンスは、室内から階段へと移動して格闘を繰り広げ、その様子を手持ちカメラが肉薄するように追いかける。手元のプレス資料によると長回し部分は7分半に及ぶそうで、誰かが一つでも動作を間違えればまた最初からやり直しという緊張感あふれる状態のもと、現場には「今度のテイクで絶対決めるぞ!」という監督の檄が飛んでいたという。


 映画史にはこのような「長回し」、あるいは「長回しに見える」撮影を盛り込んだ名作が盛りだくさんだ。古いところで言えば、ヒッチコックの『ロープ』、アルトマンやデ・パルマ作品。それに今や映画作家たちの語り草となった『トゥモロー・ワールド』、ジョニー・トーの『ブレイキング・ニュース』、さらには最初から最後まで全てがワンカットに見えるように作られた『バードマン』。最近だと『007 スペクター』や『ベイビー・ドライバー』のオープニングでも印象的に取り入れられていたのを思い出す。


 ただし、この『アトミック・ブロンド』が驚異的なのは、カメラが回っている間、単に背後の景色が絵巻物的に過ぎ行くのではないというところだ。ヒロイン自らが台風の目となり、次から次に襲い来る敵を相手に絶え間無く格闘を繰り広げる。その状態がこれだけ息長く続くケースは他では滅多にお目にかかれない。




 しかも彼女はスーパーヒーローではない。等身大の人間だ。戦うたびに傷つき、ボロボロになりながらなお立ち上がり、相手に立ち向かって拳を振り上げ、突破口を開き、なんとかこの場を脱出しようとする。その演技と身体性を兼ね備えた描写の数々には、もはや言葉にならないほどの興奮と、とめどないリスペクトの念がこみ上げてやまない。これぞまさにアクション・チームとシャーリーズ・セロンによる過酷な修練の集大成。その一瞬一瞬に、身体的な創造性が極限にまで達しゆく様が刻印されている。かくしてセロンは、自らのキャリアを賭けたフューリー・ロードでの闘いに、またしても打ち勝ったのである。


 おそらくアクション映画というジャンルにおいて、本作はある意味、踏み台でしかないのだろう。この先、デヴィッド・リーチ率いる87 elevenの面々も、そしてシャーリーズ・セロンもまた、自らの限界をさらに高く超えていくはず。でも今だけは『アトミック・ブロンド』の革新的なアクションの数々を、それに携わった人たちの奮闘を、スクリーン越しに大いに讃えたい。本作はそうするに価する珠玉の映像体験だ。


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10月20日(金)より、全国ロードショー!

公式サイト : http://atomic-blonde.jp/

配給:KADOKAWA

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