初期デ・パルマ映画のミューズ、ナンシー・アレン
キャリーをいじめたことを先生に咎められてプロムパーティーに出られなくなり、キャリーを逆恨みするクリス・ハーゲンセンを演じるのは、ナンシー・アレン。12歳から子役として芸能界デビューし、『ロボコップ』(87)では女性警官アン・ルイス役を演じた。
ビッチ感溢れる性悪女子高生を嬉々として演じているが、彼女自身は「完成した映画を見るまで、自分が演じたキャラクターがこれほどの悪人とは気づきませんでした」と語っている。キャリーに豚の血を浴びせたうえ、自動車で彼女を轢き殺そうとする役に対して信じられないコメント。っていうか、ナンシー・アレン自身がそういうキャラなんじゃないの?とあらぬ想像をしてしまう。
しかし、ナンシー・アレンは『キャリー』の撮影では辛酸を舐めた。コリンズ先生役のベティ・バックリーに平手打ちされるシーンでは、デ・パルマが望んだようなリアクションができなかったため、最終的にナンシー・アレンは30回も平手打ちされる羽目になったのである。
『キャリー』(C)2015 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
当時デ・パルマは、ベティ・バックリーと付き合っていた。しかし撮影を続けるうちにナンシー・アレンのお色気にすっかり魅了され、入れ込んでしまう。結局デ・パルマはベティ・バックリーを捨ててナンシー・アレンの元に走り、’79年に結婚。そう考えるとこの平手打ちのシーン、デ・パルマの元カノが今カノを殴るという、変態チックな構図なのである。
デ・パルマのミューズとなったナンシー・アレンは、その後『悪夢のファミリー』(80)、『殺しのドレス』(80)、『ミッドナイトクロス』(81)と、デ・パルマ初期作品に出演。『ミッドナイトクロス』では、『キャリー』で恋人役だったジョン・トラボルタと5年ぶりの再開を果たしている。しかし、ブライアン・デ・パルマとの蜜月は長くは続かず、’83年に離婚。それを予兆するように、『ミッドナイトクロス』では惨殺されてラストを迎えるという、ヒロイン役とは思えない扱いを受けている。いじめっ子役でデ・パルマに見初められたナンシー・アレンは、最後にいたぶられて破局を迎えたのだった。