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キャスリン・ビグロー監督作『ゼロ・ダーク・サーティ』にみる、ビン・ラーディン殺害までの「真実」

キャスリン・ビグロー監督作『ゼロ・ダーク・サーティ』にみる、ビン・ラーディン殺害までの「真実」

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若きCIA分析官は本当に存在したのか



 ビン・ラーディンを追い詰めたのは、ひとりの女性分析官だった。CIAの若手分析官マヤ(ジェシカ・チャステイン)は、冷血なオーラの漂う芯のある女性として描かれているが、その本質には高潔さと聡明さ、そして優しさを兼ね備えている。彼女はパキスタンに着任し、その能力が高く買われたことで、いまだ成果なしのビン・ラーディン探索チームに加わることになった。しかし、彼女の天才的な分析力をもってしても、ビン・ラーディンはおろか、その側近の尻尾すら掴めず、調査は難航を極めた。


 その間にも、世界各地でテロが頻発し、罪なき者の血が流された。同じ志の同僚までもが、自爆テロの犠牲となった。親しき仲間を喪ったマヤは、怒りとも憎しみとも言えぬ狂気さながらの執着心で、ビン・ラーディンをジワジワと追い詰める。そしてマヤは執念の末に、ビン・ラーディンの潜伏先を突き止めるのだった……。




 誰もが疑問に思うのは、この若き女性分析官は「本当に実在する人物なのか」であろう。監督のキャスリン・ビグローと、脚本のマーク・ボールの両氏は、この作戦に関わる当事者または極秘の情報源に対して、念入りな取材を積み重ねたそうだ。それらの膨大なリサーチデータを集積し、この映画を完成させたとしている。一部では、公開当時のオバマ政権から作戦の極秘情報を入手したのではと報じられたが、ビグローらは疑惑を完全に否定している。


 『ゼロ・ダーク・サーティ』の製作陣が、当時の政権から情報を入手していないとすると、一体誰から、どうやってこれほどの情報収集に成功したのか。それは、脚本家のマーク・ボールが、ジャーナリストとしての顔をあわせ持っていることに理由があるかもしれない。彼は23歳という若さで、ヴィレッジ・ヴォイス紙のコラムを担当し、政治、テクノロジー、犯罪などに関する記事を、ローリング・ストーン誌、プレイボーイ誌、マザー・ジョーンズ誌など、有名雑誌に掲載している。彼のキャリアを考慮すれば、独自ルートからの情報も割と信ぴょう性がありそうだ。


 ビン・ラーディンの潜伏先をアメリカ海軍特殊部隊が急襲するシーンなどは、われわれ一般市民も報道で知っている通りであるが、この映画で最も驚きをもって明かされるのは、ビン・ラーディンの居所を絞り込んだのは、女性CIA分析官である、という事実であろう。監督は、パブリシティに対するインタビューの中で、「主人公マヤのモデルとなった女性局員は実在する」と断言しているが、CIA当局はモデルとなった局員に関して一切の公言を避けている。



 この映画のすべてが本当に“真実”であるのか、少々疑問も残るだろう。この事件の結末は明らかだが、そこに至るまでの“真実”は、もはや知る術がない。マヤが最後に流した涙の意味は、世界に対する失望の念なのだろうか。巨悪を滅ぼしたとしても、世界はそう簡単には変わらない。戦争はこの後も続き、“真実”は隠され続けるのだから。



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