(C)2017 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
『十二人の怒れる男』本当の民主主義を問う、“アメリカの良心”的作品
卓越したシドニー・ルメットの演出術
まずシドニー・ルメットは、俳優全員を部屋に閉じ込めて、執拗にリハーサルを繰り返した。撮影期間が短いため、準備を完璧にしておく必要があったのも理由の一つだが、12人もの人間が狭い部屋に閉じ込められるとどういう心理状態になるのか、役者にそれを実感してもらうのが最大の理由だったという。
レンズの選択やカメラの位置にもこだわった。映画の後半になるにつれて、陪審員室の密閉度が高まるように計算したのだ。シドニー・ルメット自身のインタビューを引用してみよう。
「私は映画が進むにつれて、部屋がどんどん小さく見えるようにしたかったのです。それは、映画が進むにつれて、焦点距離の長いレンズに移行することを意味していました。最初は通常のレンズ(28mm〜40mm)から始めて、50mm、75mm、100mmのレンズへと変えていきました。さらに、映画の最初の1/3を高いところから撮影し、中盤は目の高さで、最後の1/3を目線よりも低く撮影しました」
『十二人の怒れる男』(C)2017 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
ラストシーンでカメラは初めて裁判所から外へ出るが、密閉空間から一転して引きのショットを使うことで、全てから解き放たれたかのような開放感が生まれたのだ。
小道具を使った演出も気が利いている。蒸し暑い室内でスーツを脱ごうとしない陪審員4番は、「私は汗をかかない」と豪語するが、陪審員8番との対決で自説が間違っていることに気づき、額からこぼれ落ちる汗をハンカチで拭う。彼の敗北感が、「ハンカチで額を拭う」という行為でよりクッキリと浮かび上がる。
セリフではなく、ちょっとした動作で登場人物の心理状態を表現する演出も巧い。「無罪」に投票する陪審員が次々と挙手するシーンがあるが、ルメットはあえて一人一人の顔を映さず、手だけを映し出す。それによって、相対的に陪審員12番の挙手が弱々しいことが明示され、彼は「有罪・無罪をなかなか決められない=自分では物事を決定できない人物」であることを雄弁に語ってしまう。うーむ、おそるべき演出手腕!