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『十二人の怒れる男』本当の民主主義を問う、“アメリカの良心”的作品

(C)2017 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

『十二人の怒れる男』本当の民主主義を問う、“アメリカの良心”的作品

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『十二人の怒れる男』が問いかける民主主義



 この映画のテーマは明快だ。映画の中盤で陪審員11番が皆に話しかけるセリフに、全ては集約されている。


 「我々には責任がある。これが実は民主主義の素晴らしいところだ。(中略)


 郵便で通告を受けるとみんながここに集まって、全く知らない人間の有罪無罪を決める。この評決で私たちには何の損も得もない。この国が強い理由はここにある」


 そう、法廷ミステリー映画の体裁をとってはいるが、『十二人の怒れる男』が描くのは民主主義そのもの。重要なのは、その民主主義は特定の人種・民族に帰属するものではなく、あらゆる人間に対して開かれている、ということだ。


 この映画に登場する12人は、まさにアメリカ社会の縮図。陪審員5番はスラム育ち、陪審員11番はユダヤ移民というマイノリティ層。陪審員3番と陪審員10番はそんなマイノリティに対してあからさまに人種差別攻撃を繰り返し、陪審員7番と陪審員12番は事件に対して無関心を貫く。陪審員1番はリーダーシップ、陪審員4番は水も漏らさない冷徹な論理、陪審員9番は知性豊かな老賢人として、場を統率しようとする。陪審員2番と陪審員6番は思慮深く人情深いアメリカ人を体現し、「アメリカの良心」を表す白いスーツに身を包んだ陪審員8番は、偏見なく物事をみるように訴える。



『十二人の怒れる男』(C)2017 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.


 「個人的な偏見を排除するのはいつも難しい。しかも偏見は真実を曇らせる」


 少年が本当に父親を刺殺したのかどうか、それは映画の中では明らかにされない。それよりも重要なのは、彼が貧困層のマイノリティであることで、「彼が有罪である」という偏見がまかり通ってしまうことへの恐怖だ。


 「いいか、ここじゃすべてがねじ曲げられている」


 と陪審員3番は激昂して叫ぶが、息子との確執から少年を有罪にしようとする彼の行動は、それ自体が「個人的な偏見」であり、「ねじ曲げられている」こと。民主主義とは、多数の意見に従うことではない。少数の意見に耳を傾けることだ。それが貧困層であろうとも、マイノリティーであろうとも。


 ドナルド・トランプ元大統領はホワイトハウスで『ジョーカー』(19)の上映会を実施したという。ブラックユーモア的に格差社会への警鐘を鳴らしたこの作品を、トランプはいたく気に入っていたそうだが、彼が本当に鑑賞すべきは『十二人の怒れる男』ではないだろうか?世界の分断化を助長していた彼に、民主主義が何たるかを理解してもらうには、この映画ほどうってつけの教材はないのだが。



文:竹島ルイ

ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。



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『十二人の怒れる男』

ブルーレイ発売中

¥1,905+税 

20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン

(C)2017 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

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