低所得者住宅地帯”バンリュー”の歴史
ところで、ボスケのような低所得者用住宅地帯のことを、俗に”バンリュー”と呼ぶ。フランス語で”郊外”という意味だ。その歴史は古い。フランス政府は1970~80年代にかけて、旧植民地のアルジェリアやモロッコからの移民を受け入れるために、大都市の郊外に低所得者用の公営住宅を次々と建設する。しかし、石油ショックによって移民の需要がなくなると、移民2世や3世の失業率は高まり、非行化した少年たちの軽犯罪が増加。結果、”バンリュー”はフランス社会から犯罪の温床のような目で見られることになる。
2005年10月27日には、パリ東北部の”バンリュー”、クリシー=ス=ボワで、警官の追跡を逃れて変電所に隠れようとした2人の少年が、感電死するという痛ましい事件が発生する。これをきっかけに、数百人の青少年による大規模な暴動が起き、火の手は瞬く間にフランス全土に広がった。因みに、グワダを演じるジェブリル・ゾンガはクリシー=ス=ボワの出身だ。
『レ・ミゼラブル』(c)SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS
“バンリュー”は映画の題材になることも多く、マチュー・カソヴィッツ監督が若者たちの荒廃を描いた『憎しみ』(95)、内戦の故郷スリランカから逃れてフランス郊外にやって来たタミル難民の現実に目を向けた、第68回カンヌ映画祭パルムドール受賞作『ディーパンの闘い』(15)、ギャングが仕掛けた時限爆弾を探す男たちがノンストップ・アクションを展開するリュック・ベッソン製作『アルティメイト』(04)等、ジャンルを跨いで多くの作品の舞台になって来た。
映画ファンが今も愛してやまない『最強のふたり』(11)で、オマール・シー扮するアフリカ移民のドリスが住むのも、パリの北東にある”バンリュー”の街、ヌ=カイエだ。原題の『アンタッチャブル』とは、超ブルジョワのフィリップ(フランソワ・クリュゼ)とドリスは所詮重なり合えない関係にある、という意味だが、現実には2人は永遠の友情で結ばれている。しかし、それはまさに奇跡のような実話であることが、『レ・ミゼラブル』を見ると改めてよく分かるのだ。
文 : 清藤秀人(きよとう ひでと)
アパレル業界から映画ライターに転身。映画com、ぴあ、J.COMマガジン、Tokyo Walker、Yahoo!ニュース個人"清藤秀人のシネマジム"等に定期的にレビューを執筆。著書にファッションの知識を生かした「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社刊)等。現在、BS10 スターチャンネルの映画情報番組「映画をもっと。」で解説を担当。
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『レ・ミゼラブル』
2.28(金)新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
(c)SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS
公式サイト:lesmiserables-movie.com