(c) PATHÉ PRODUCTIONS LIMITED AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2019
『ジュディ 虹の彼方に』ジュディ・ガーランドとレネー・ゼルウィガー。響き合う2つの魂
2020.03.06
ガーランドとゼルウィガーを結びつけたもの
劇中の大半を占めるロンドンのナイトクラブ、”トーク・オブ・ザ・タウン”のシーケンス。子役時代からの薬物依存にアルコール依存症までがプラスされ、本番寸前まで舞台に立てず、エージェントの献身的なサポートによって、やっとのこと歌い始める46歳のガーランド。そんな彼女を、レネー・ゼルウィガーが振り絞るように演じる。
ゼルウィガーが役作りに費やした時間は実に1年間。師事したのは、『ラ・ラ・ランド』(16)ではエマ・ストーンを、『メリー・ポピンズ リターンズ』(18)ではエミリー・ブラントを鍛え上げた、ボーカル・コーチのエリック・ヴェトロだ。ゼルウィガーの少ししゃがれた声は、ガーランド独特の張りのあるハイトーンには程遠いが、晩年の彼女の歌声を再現したという意味で、正解だと言える。
『ジュディ 虹の彼方に』(c) PATHÉ PRODUCTIONS LIMITED AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2019
凄いのは、あらゆる薬の副作用でフラフラしながらステージに立った彼女が、やがて、曲が進むにつれてスターの精気を蘇らせていくプロセスだ。歌声が体を覚醒させ、それが狭い客席全体を巻き込んでいく瞬間は、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで芸術監督を務めたこともある、ルパート・グールド監督と、ガーランドの動きの特徴を会得した上で本番に臨んだゼルウィガーの、二人の努力の賜物だ。
それはまた、ガーランド独特のショートヘアとアイメイクをいくら模倣しても、あまり似ていないゼルウィガーの外見ではなく、彼女の女優としての個性がガーランドのそれと響きあったから起こり得たもの。2人に共通するのは、忘却の彼方へと葬られそうになっても、失わなかった人懐っこさと温かみではないだろうか。それが、子役時代からロンドン時代のガーランドを経由して、演じるレネー・ゼルウィガー本人に憑依した結果の、今回のアカデミー主演女優賞受賞ではなかっただろうか。
『ジュディ 虹の彼方に』(c) PATHÉ PRODUCTIONS LIMITED AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2019
レネー・ゼルウィガーは、『ブリジット・ジョーンズの日記』(01)で当たり役をゲットし、続く『シカゴ』(02)でオスカーに手が届きかけ、『コールド・マウンテン』(03)で遂にアカデミー助演女優賞を手にした。これら2000年代の始まりは好調だったのだが、その後の10数年は不遇の時代を経験している。
そんな彼女が、ハリウッド黄金期に君臨した、どん底から這い上がろうとする大スターの凄みを演じて、再び賞レースに戻ってきたことは、感慨深いものがある。熱演の裏には、深い部分での共感があったのではないだろうか。
文 : 清藤秀人(きよとう ひでと)
アパレル業界から映画ライターに転身。映画com、ぴあ、J.COMマガジン、Tokyo Walker、Yahoo!ニュース個人"清藤秀人のシネマジム"等に定期的にレビューを執筆。著書にファッションの知識を生かした「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社刊)等。現在、BS10 スターチャンネルの映画情報番組「映画をもっと。」で解説を担当。
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『ジュディ 虹の彼方に』
原題:JUDY/2019/イギリス/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/118分/字幕:稲田嵯裕里
配給:ギャガ
(c) PATHÉ PRODUCTIONS LIMITED AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2019