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『コーラスライン』舞台はシリアスな限定空間。それまでのミュージカルの常識を覆したブロードウェイの金字塔

(c) Photofest / Getty Images

『コーラスライン』舞台はシリアスな限定空間。それまでのミュージカルの常識を覆したブロードウェイの金字塔

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短い命で散ったミュージカルの天才


 

 ミュージカルの観客が求めるのは、日常から逃避する華やかな世界だけではない。舞台に立つキャラクターたちの苦悩や本音に自分をシンクロさせることで、無上の感動が湧き上がることもある。その意味で、「コーラスライン」では、オーディションを受けるダンサーたちに、過去のトラウマ、多様な性的志向などさまざまなバックグラウンドを与え、その個性が生かされたセリフ、歌、ダンスを配することで、観客の心を引きずり込むことに成功した。 


 「コーラスライン」を構想し、演出・振付を手がけたのは、マイケル・ベネット。「コーラスライン」の舞台版に登場するのはダンサーと振付のアシスタントのみだが、オーディションをする側の演出家の「声」が終始、響き渡る。この演出家、ザックには当然、マイケル・ベネット自身が投影されており、ダンサーの一人で、ザックの過去の恋人だったキャシー役には、実際にベネットと短い結婚生活を送ったドナ・マケクニーが初演時にキャスティングされた。


 「コーラスライン」の後、「ドリームガールズ」という、やはりバックステージものの傑作ミュージカルを演出したマイケル・ベネットだったが、1987年、44歳の若さでエイズで死去。バイセクシュアルであった彼の一面は、「コーラスライン」で複数登場するゲイのキャラクターにも反映されているのだ。


 このブロードウェイでの熱狂を経て、日本でも早速、1979年に劇団四季が「コーラスライン」を上演。市村正親、前田美波里、浜畑賢吉らが初演キャストで、それ以来、繰り返し上演されている。


 ブロードウェイでは、この「コーラスライン」の後、ロンドン、ウエストエンドから来た「オペラ座の怪人」、「レ・ミゼラブル」、「ミス・サイゴン」といったシリアス系のミュージカルも大ヒット。こうした作品を観客が受け入れる素地を、「コーラスライン」が作ったと考えていいかもしれない。楽しさや華やかさが主流のミュージカルの世界を大きく変えたわけで、その流れは2017年現在、大ヒット中の、アメリカ建国を背景に移民問題にも切り込んだ「ハミルトン」にも受け継がれている。



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