『めぐり逢えたら』でのウィルソンの即興演技
そんな2人の共演作の一つが『めぐり逢えたら』(93)だ。ハリウッドに一時代を築いたロマンチック・コメディ、略してロマコメの代表作である。ハンクスは最愛の妻を亡くしてシアトルで息子ジョナと2人で暮らす建築家の父親サムを、そして、ウィルソンはサムの姉、スージーを演じているのだが、スージーに与えられた役割は大きい。なぜなら、彼女の長いモノローグが映画の鍵になっているからだ。
スージーと夫のグレッグ(ヴィクター・ガーバー)は夫婦してシアトルにサムを訪ねた際、サムからこんな話を聞く。サムがラジオの”お悩み相談コーナー”で妻を亡くした悲しみを告白した途端、全米中の女性から膨大なラブレターが届き、その中の1通には、バレンタテイン・デーにニューヨークのエンパイア・ステートビルの屋上で待ち合わせしたいという、1人の女性の突拍子もない提案が綴られていたというのだ。それを聞いたスージーは即「それって映画よね」と言って、いきなり『めぐり逢い』(57)の話を始める。
『めぐり逢い』予告
それは、こんな物語だ。ニューヨークに向かう豪華客船内で知り合い、恋におちたプレイボーイの画家ニッキー(ケイリー・グラント)と、元歌手のテリー(デボラ・カー)は、お互い婚約者がいる身だったが、6ヵ月後に、ニューヨークのエンパイア・ステートビルの屋上で再会しようと約束し別れる。だが、約束した当日、テリーは交通事故に遭い、車椅子生活に。彼女はニッキーに気を使い、そのことを彼には知らせずに消息を絶つ。
と、話しながらスージーは徐々に感極まり、サム、グレッグ、ジョナ等、呆れる男たちの前で泣きながら続きを話し始める。
2人が互いの存在を忘れかけた頃、偶然、テリーと再会したニッキーは、クリスマスに彼女の家を訪問。そこで、自分がテリーを思いながら描いた絵が、画廊を訪れた車椅子の夫人に譲られたという話をするうちに、もしや、それはテリーではないかと思い、扉を開けて奥の部屋に入ってみると、案の定、そこには自分の絵が飾られているではないか!?
もはやスージーの顔は涙でくしゃくしゃだ。